Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

今年見た映画(その1)

 今年見た映画で、まだブログに感想を書いていなかったものについて書き記しておきます。


ジャッカルの日』(フレッド・ジンネマン) 1973年 


 フレデリック・フォーサイス原作、フレッド・ジンネマン監督によるサスペンス映画の名作。恥ずかしながら今回が初見でした。ドゴール大統領暗殺を目論む暗殺者ジャッカル(エドワード・フォックス)と、パリ警察の攻防を冷徹なドキュメンタリー・タッチで描いています。ジャッカルが意外に失敗をやらかす(逃走中に事故ったり)ところに妙なリアリティがありました。ジャッカルを追うルベル警視(ミシェル・ロンズデール)の疲れ顔も良かったなあ。


(『ジャッカルの日』THE DAY OF THE JACKAL 監督/フレッド・ジンネマン 脚本/ケネス・ロス 撮影/ジャン・トゥルニエ 音楽/ジョルジュ・ドルリュー 出演/エドワード・フォックス、ミシェル・ロンズデール、アラン・バデル、トニー・ブリットン、シリル・キューザック 1973年 142分 イギリス/フランス)


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『Seventh Code:セブンス・コード』(黒沢清) 2013年 


 前田敦子のPV用に製作されたショート・フィルム。作品の成り立ちは異色ながら、何ら変わらぬ黒沢清の映画でありました。たった60分の中で、恋愛映画、サスペンス、アクション、ミュージカルとジャンルを奔放に横断しつつ、不気味にゆらめくカーテンや廃墟などお馴染みの映像が次々繰り出されてファンにはたまらない短編となっています。最新作『岸辺の旅』は今までとは違う路線のようで楽しみなのですが、個人的には『Seventh Code:セブンス・コード』のような長編を見てみたいなあと思います。いっそ、哀川翔主演の『勝手にしやがれ!』劇場版はどうですかね。いやマジで。当然二本撮りなんで、1本目は脚本・宮藤官九郎、ゲストは能年玲奈橋本愛。2本目は脚本・井口昇、ゲストは相沢梨紗夢眠ねむでんぱ組.inc)で。音楽は大友良英(テーマ曲トルステン・ラッシュ)で!


(『Seventh Code:セブンス・コード』 監督・脚本/黒沢清 撮影/木村信也 音楽/林祐介 出演/前田敦子鈴木亮平、アイシー、山本浩司 2013年 60分 日本)




バンクーバーの朝日』(石井裕也) 2014年 


 戦前のカナダ、バンクーバーで結成された日系移民の野球チーム「バンクーバー朝日」。パワーでは白人チームに勝てない日系人選手たちが、バントを駆使した頭脳プレーで勝ち進み、後にカナダ野球の殿堂入りを果たす・・・というお話。面白くなりそうなお話なんですが、演出が平板で盛り上がりません。映画としては、差別と貧困にあえぐ移民の苦闘を描くドラマなのか、逆境の野球チームが勝利を得るスポーツドラマか、どっちつかずの中途半端な印象でした。移民一世代目と二世のギャップなんかもっときちんと描くべきではないかなあ。妻夫木聡亀梨和也勝地涼池松壮亮若手俳優陣は良かったと思うけど、全体的にこざっぱりし過ぎてるというか、現代的に描かれているのが(リアリティという意味では)若干気になりました。音楽(渡邊崇)はとても良かった。


(『バンクーバーの朝日』 監督/石井裕也 脚本/奥寺佐渡子 撮影/近藤龍人 音楽/渡邊崇 出演/妻夫木聡亀梨和也勝地涼上地雄輔池松壮亮高畑充希田口トモロヲ徳井優、大鷹明良、鶴見辰吾光石研石田えり佐藤浩市 2014年 133分 日本)




舟を編む』(石井裕也) 2013年 


 新しい辞書の編纂に取り組む編集部員たちを描くというあらすじを読んで、勝手に「辞書編纂=地味ながら熱いドラマ!」「はぐれ者編集者たちが団結して偉業を成し遂げる!」なんて燃える文系映画を想像していたら、本作は一種のファンタジーでありました。文系ヲタクが燃える映画、ではなくて萌える映画だったという。主人公は(演じる松田龍平の異質な存在感もあって)非常にエキセントリックな人物として描かれています。板前を目指すヒロイン(宮崎あおい)との恋模様なんてこれっぽっちも現実感がありません。個人的には、文系ヲタクが「燃える」映画を見たかったですよ。2本続けて見ても、新進気鋭の石井裕也監督の力量と魅力は分からず仕舞いだったなあ。音楽(『バンクーバーの朝日』と同じ渡邊崇)はとても良かったと思います。


(『舟を編む』 監督/石井裕也 原作/三浦しをん舟を編む』 脚本/渡辺謙作 撮影/藤澤順一 音楽/渡邊崇 出演/松田龍平宮崎あおいオダギリジョー黒木華渡辺美佐子池脇千鶴伊佐山ひろ子八千草薫小林薫加藤剛 2013年 133分 日本)


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クライマーズ・ハイ』(原田眞人) 2008年 


 今年は『駆込み女と駆出し男』『日本のいちばん長い日』と新作続き、売れっ子の原田眞人監督。『おニャン子・ザ・ムービー 危機イッパツ!』や『ガンヘッド』は今や黒歴史か?さておき『クライマーズ・ハイ』は、1985年の日航機墜落事故で揺れる群馬の新聞社を舞台にした群像劇です。大分前にTV放映されたのを録画していたもので、長い映画(145分)なんで腰が退けていたのですが、見始めたら面白くて最後まで一気に見てしまいました。群像劇を生き生きと綴るプロフェッショナルな演出の上手さと俳優たちのアンサンブルには特筆すべきものがあります。タイトルに込められたテーマというか、父子の話は何だか本編と上手く噛み合っていないような気がしましたが。


(『クライマーズ・ハイ』 監督/原田眞人 脚本/加藤正人成島出原田眞人 撮影/小林元 音楽/村松崇継 出演/堤真一堺雅人尾野真千子高嶋政宏山崎努遠藤憲一田口トモロヲ堀部圭亮 2008年 145分 日本)


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地獄でなぜ悪い』(園子温) 2013年 


 まるでジョン・ウォーターズの『セシル・B・ザ・シネマ・ウォーズ』が日本に甦ったかのような快作。『セシル・B』における映画とはすなわち(ゲリラ)撮影というもので、ちゃんと作品を完成させて上映しようという意思は感じられませんでした。しかし本作ではちゃんとその先を行って、映画を完成させようとするのがいい。ホンモノのヤクザの抗争を撮影してアクション映画を撮影しようというコメディが、最後には狂気の映画監督のファンタジーへと昇華します。映画製作を題材にした作品としては、ベルギーのカルト映画『ありふれた事件』(1992年)と併置されるべき重要作と言えるでしょう。嗚呼、自主映画魂ここにあり。キチ○イ監督の誇大妄想に巻き込まれて青春を棒に振ったブルース・リー野郎(坂口拓)が、ついに本当の修羅場を得てヌンチャクを振るう場面には泣けました。


(『地獄でなぜ悪い』 監督・脚本/園子温 撮影/山本英夫 音楽/園子温井内啓二、坂本秀一 出演/國村隼堤真一長谷川博己星野源二階堂ふみ友近坂口拓ミッキー・カーチス、渡辺哲 2013年 129分 日本)




『ダーティ・セブン』(トニーノ・ヴァレリ) 1972年


 久々のマカロニウエスタンは、日本劇場未公開作『ダーティ・セブン』。マカロニ・ファンの間ではTV放映題『要塞攻防戦/ダーティ・セブン』として知られていた作品で、いつの間にか廉価版DVDが出ていました。監督は『ミスター・ノーボディ』『怒りの荒野』『怒りの用心棒』のトニーノ・ヴァレリ

 南軍のべングローブ大佐(ジェームズ・コバーン)は戦いを放棄し北軍に砦を渡してしまった為、反逆罪に問われています。『皆殺しのジャンゴ』よろしく死刑囚から荒くれ者をスカウトし、再び砦に乗り込むのですが・・・というお話。意外なことに、敵地への潜入サスペンスが中心で、派手な撃ち合いや皆殺しの見せ場が最後の最後になるまでほとんどありません。マカロニにしてはえらく地味だなあという印象です。お話が暗いせいか主演のコバーンもいささか精彩を欠いているように思いました。敵役は刑事コジャックことテリー・サバラス。これまたどんよりした演技で、いつものアクの強さが感じられなかったなあ。タイトルの通り「七人もの」なんですが、マカロニファンにはお馴染みのふとっちょバッド・スペンサー以外は印象に残りません。DVDのクレジットにテレンス・ヒルの名前があるんですが、どの役かわからんかった。

 
(『ダーティ・セブン』(TV放映題『要塞攻防戦/いのち知らずのならず者』) UNA RAGIONE PER VIVERE E UNA PER MORIRE 監督/トニーノ・ヴァレリ 脚本/エルネスト・ガスタルディ、トニーノ・ヴァレリ 撮影/アレハンドロ・ウロア 音楽/リズ・オルトラーニ 出演/ジェームズ・コバーンテリー・サヴァラス、バッド・スペンサー、ラインハルト・コルデホフ、ジョルジュ・ジェレ、テレンス・ヒル、ベニート・ステファネッリ、ホセ・スアレス 1972年 90分 イタリア/フランス/西ドイツ/スペイン)




シン・シティ 復讐の女神』(ロバート・ロドリゲスフランク・ミラー) 2014年 


 ロバート・ロドリゲスフランク・ミラーのコンビによるコミック・ノワール第2弾。「クール」とか「スタイリッシュ」とか呼ばれそうなモノクロ(パートカラー)の凝った映像構成は、意外に映画的な躍動感を欠いているように思います。所詮雰囲気モノというか、何かのパロディというかフェイクに見えてしまうんだよね。活劇としての魅力は前作よりも後退しているように見えたなあ。出演は前作にも出ていたミッキー・ロークジェシカ・アルバブルース・ウィリスパワーズ・ブースらに加えて、ジョシュ・ブローリンジョセフ・ゴードン=レヴィットエヴァ・グリーン、脇にはレイ・リオッタクリストファー・ロイドステイシー・キーチレディー・ガガなんかも。これだけの顔ぶれを揃えておきながらもったいないなあと思います。


(『シン・シティ 復讐の女神』SIN CITY: A DAME TO KILL FOR 監督/ロバート・ロドリゲスフランク・ミラー 脚本/フランク・ミラー 撮影/ロバート・ロドリゲス 音楽/ロバート・ロドリゲス、カール・シール 出演/ミッキー・ロークジェシカ・アルバジョシュ・ブローリンジョセフ・ゴードン=レヴィットロザリオ・ドーソンブルース・ウィリスエヴァ・グリーンパワーズ・ブース 2014年 103分 アメリカ)




ブルース・リー死亡遊戯』(ロバート・クローズ) 1978年


 BSで放送されたので、もの凄く久しぶりに『死亡遊戯』を再見。以前見たのは中学生の頃だったかな。今更説明の必要もないと思いますが、クライマックスのアクションシーンだけを撮影して主演のブルース・リーが急逝したため、ドラマ部分に代役を立てて完成されたいわくつきの作品です。見直してみるとこれが呆れるほど雑!なんで驚きました。代役がこれっぽっちも似ていないばかりか、楽屋での会話場面では鏡にリーの写真を貼りつけて撮ってたりして。「どうせリー本人じゃないの皆知ってるんだからいいじゃん」「想像で補完してくれよ!」とでも言わんばかりの適当な繋ぎ方でした。いかにもこの頃の香港映画らしいというか。今だったらCG駆使してもっとスムーズに繋いで見せるんだろうけど、それはそれでイヤかも。

 五重塔内のクライマックスシーンは、「各階で待ちうける敵を倒しながら塔を登っていく」というパターンを作り後年のアクション映画や格闘漫画などに多大な影響を与えています。リーの対戦相手の顔つき体型持ち技のバリエーションが多彩で、今見直しても充分なインパクトがあります。

 主人公を助ける記者を演じるのはペキンパーの『ガルシアの首』や『キラー・エリート』に出ていたギグ・ヤング。本作では良い人の役なんですが、どことなく不穏な感じがするんだよね。


(『ブルースリー死亡遊戯死亡遊戯 GAME OF DEATH 監督/ロバート・クローズ 脚本/ジャン・スピアーズ 撮影/ゴッドフリー・ゴダー 音楽/ジョン・バリー 出演/ブルース・リーギグ・ヤング、ディーン・ジャガー、コリーン・キャンプ、カリーム・アブドゥル=ジャバー 1978年 100分 香港)


死亡遊戯〈日本語吹替収録版〉 [DVD]

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『マッドマックス/怒りのデス・ロード』(ジョージ・ミラー) 2015年


 『マッドマックス』シリーズ、27年ぶりまさかの最新作。『マッドマックス2』をさらに過激にしたような作風(何せ2時間ほぼ全編カーチェイスという徹底ぶり)で、予想以上の破壊力に大満足でした。過剰なだけかと言えばそんなことはなくて、女性解放のテーマがきちんと描かれています。しかも途中で引き返して砦へと向かうあたりでは西部劇の香りすら漂う。もしかするとジョン・フォードの『駅馬車』を同時代で見た観客たちも、駅馬車とインディアンの追撃戦を見てこんな風に興奮したのかもしれません。

 新しいマックス(トム・ハーディ)はほぼ狂言回しみたいな役どころで、本当の主人公はシャーリーズ・セロンです。片腕のセロンの格好良さは、究極のアクション・ヒロインと言っても過言ではありません。マックスたちに加勢するのがおばさんバイカー集団というのも意表をついていて良かった。

 近年見た新作アクション映画の中では突出した出来で、映画館で見て良かったと大満足でした。唯一不満があるとすれば、ジャイロ・キャプテンがいないことです。『マッドマックス2』を何度も何度も繰り返し見たのは、ジャイロ・キャプテンのユーモアがあるからでした。もし本作にジャイロ・キャプテン(的なキャラクター)がいたら、もっと愛せただろうと思います。


(『マッドマックス/怒りのデス・ロード』Mad Max: Fury Road 監督/ジョージ・ミラー 脚本/ジョージ・ミラー、ブレンダン・マッカーシー、ニコ・ラサウリス 撮影/ジョン・シール 音楽/ジャンキーXL 出演/トム・ハーディシャーリーズ・セロンニコラス・ホルト、ヒュー・キース・バーン、ロージー・ハンティントン=ホワイトリーゾーイ・クラヴィッツ 2015年 120分 オーストラリア/アメリカ)




続く。