Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

映画感想その12

 昨日の続きです。最近見た映画、または大分前に見たけど感想を書きそびれていた映画について、ここらでまとめて感想を書き記しておきます。 


『ライブテープ』(松江哲明

 2009年の元日、吉祥寺で行われた前野健太のゲリラライブを74分1カットで撮影した音楽ドキュメンタリー。初詣客で賑わう吉祥寺の八幡神社から、バンドメンバーが待つ井の頭公園のステージまで、途中松江監督によるインタビュー(雑談?)を挟みつつ、カメラはギターを手に吉祥寺の街を彷徨い歩く前野健太を追い続ける。美的観点からするとあまりに雑だなあと思うところがないでもないが、やりきった清々しさみたいなものが感じられて最後は気にならなくなる。路地裏の飲み屋の前に佇むミュージシャンが合流して演奏に加わる場面など最高だった。前野はみうらじゅんの『アイデン&ティティ』に登場するディランにそっくりだ。かつて週末のたびに出掛けていた吉祥寺の街も懐かしかった。 

(『ライブテープ』 監督/松江哲明 撮影/近藤龍人 出演/前野健太 2009年 74分 日本)




『トーキョードリフター』(松江哲明)  

『ライブテープ』がとても面白かったので、監督松江哲明+主演前野健太コンビによる姉妹篇『トーキョードリフター』(2011年)もチェック。東京流れ者、だもんね。2011年5月、東日本大震災後の節電によってネオンが消えた暗い東京を前野が弾き語りながら彷徨い歩く。望遠でピンボケだったり手振れだったり粒子の粗い映像が生々しい。あの日、お前はどこで何をしていたんだ、と突きつけてくるような映像。折から雨が降ってきて、暗い東京の街と前野を冷たく濡らす。救いは前野の歌声だ。本人大真面目なのにどこかユーモラスという前野の歌が荒涼とした映像に人肌の感覚を取り戻している。バイクで移動する途中でAKB48のヒット曲を真面目な調子で口ずさんだりしておかしい。夜明けの土手で熱唱するラブソング(というより春歌か)が『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の洒落だったりするあたり何とも言えない味わいがある。

(『トーキョードリフター』 監督/松江哲明 撮影/近藤龍人 出演/前野健太 2011年 72分 日本)




『フラッシュバックメモリーズ 3D』(松江哲明) 

 松江監督の音楽ドキュメンタリーをもう1本。交通事故で脳に障害を負った木管楽器ディジュリドゥの奏者GOMAがリハビリを経て復活ライブを果たすまでを描いたドキュメンタリー。高次脳機能障害により記憶が失われてゆくGOMAの葛藤を、スタジオライブの模様と過去映像、本人と妻の日記や写真を織り交ぜて3D映像表現で描くという野心的な演出が試みられている。残念ながら2Dでの鑑賞だったが、監督の思惑はきちんと伝わってきた。人の人生は(文字通り)立体的で奥行きのあるものなのだ。ディジュリドゥといえばムーンライダーズの「犬の帰宅」「「Masque-Rider」で使われていたのを思い出す。どちらも曲の荒涼としたイメージを強調するような調べだったので、こんなにダンサブルなサウンドにのるのかと思い驚いた。

(『フラッシュバックメモリーズ 3D』 監督/松江哲明 出演/GOMA 2012年 72分 日本)




メカゴジラの逆襲』(本多猪四郎) 

 『本多猪四郎無冠の巨匠』を読んで興味を持った1本。この頃の東宝怪獣映画って子供の頃に大体見ていると思うけど、本作は未見であった。当時すっかり子供向けになったゴジラ映画を、生みの親である本多監督を再起用することで軌道修正しようとしたが、興行的に失敗し本多監督による最後の怪獣映画であり、昭和ゴジラ映画の最終作となった。前作『コジラ対メカゴジラ』(福田純監督)がブラックホール第3惑星人とインターポールの攻防を主軸とした活劇路線だったのに比べると、この続編は非常に重苦しい雰囲気の映画になっている。侵略者と、彼らに利用されるマッドサイエンティストメカゴジラに接続されたサイボーグ少女、といった登場人物たち。ゴジラが血飛沫を吹き上げる場面、侵略者が脱走者を処刑する場面、サイボーグ少女の手術(当時この場面の乳房描写がトラウマになった少年が多数いるという)場面、等々、描写も妙に生々しい。本多監督の意欲と当時のゴジラ映画の位置づけ、技術(もしかしたら予算)、そういった要素がうまく噛み合っていない印象で、あまり楽しめなかったというのが正直な感想。そもそも、単純に言って「デカイのが出てきた!ヤバい!」という怪獣映画の原初的な魅力に乏しい気がして辛かった。

(『メカゴジラの逆襲』 監督/本多猪四郎 脚本/高山由紀子 撮影/富岡素敬 音楽/伊福部昭 出演/佐々木勝彦、藍とも子、麻里とも恵、平田昭彦、睦五郎、中丸忠雄内田勝正 1975年 83分 日本)




『空の大怪獣 ラドン』(本多猪四郎

 『メカゴジラの逆襲』が哀しい映画だったので、『空の大怪獣ラドン』を再見。久々に見直したが、いや面白かった。監督本多猪四郎、特撮監督円谷英二の素晴らしいコンビネーションを堪能できた。このジャンルごくごく初期の作品(1956年)ということもあろうが、全く子供向けではなくて、演出はかなり本気で怖い。巨大ヤゴ・メガヌロンの襲撃を見てトラウマになった子供は多数いるだろうなあと思う。一番びっくりしたのは、ラドンの翼が起こす突風で吹き飛ばされたパトカーが岩に激突して破壊される場面。ちゃんと乗ってる人が見える!ミニチュアなのにちゃんと「人が死んだ」というショック場面になっていた。日本の特撮スゲえ!映画としての完成度も高く、オリジナル版の『ゴジラ』を除けば、怪獣映画の最高傑作と言っても過言ではないだろう。

(『空の大怪獣 ラドン』 監督/ 本多猪四郎 脚本/村田武雄、木村武 撮影/芦田勇 音楽/伊福部昭 出演/佐原健二平田昭彦、田島義文、松尾文人、草間璋夫、山田巳之助 1956年 82分 日本)


本多猪四郎 無冠の巨匠

本多猪四郎 無冠の巨匠