Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

読書記録その1

 最近読んだ書籍、または大分前に読んだけど感想を書きそびれていた書籍について、ここらでまとめて感想を書き記しておきます。  


『闇の王国』(リチャード・マシスン) 

 リチャード・マシスンの長編『闇の王国』Other Kingdoms(2008年)。老作家が若き日に体験した不思議な出来事を語る、という体裁のファンタジー小説。面白かったけど、語り手であるじいさんがあまりに饒舌なんで、ファンタジーならではのドリーミーな感覚が希薄なのであった。


闇の王国 (ハヤカワ文庫NV)

闇の王国 (ハヤカワ文庫NV)



『バゴンボの嗅ぎタバコ入れ』(カート・ヴォネガット) 

 カート・ヴォネガットの短編集『バゴンボの嗅ぎタバコ入れ』Bagombo Snuff Box(1999年)。1950年に作家デビューしたヴォネガットの最初期(1950年から63年頃にかけて)の短編が多数収録されている。ユーモラスな語り口は後年と変わらないけれど、当時の大衆雑誌という発表媒体のせいか、かなり予定調和的な印象もあり。ヴォネガットがSF的趣向を縦横に展開する以前の作品ということで、SF要素はほとんどない。本書の興味深いところは、ヴォネガットの小説世界がどうこうというよりも、50年代アメリカの家庭や社会の雰囲気がストレートに感じられるところではないかと思う。




『マラキア・タペストリ』(ブライアン・W・オールディス) 

 サンリオSF文庫再訪、ブライアン・W・オールディス『マラキア・タペストリ』The Malacia Tapestry(1976年)。中世都市国家マラキアを舞台に、売れない役者ド・キロロの野望と恋愛遍歴を描くファンタジー小説。主人公ド・キロロの行き当たりばったりな行動には感情移入が不可能だが、本作で主眼が置かれているのは主人公の冒険ではなくて、マラキアの世界そのものという印象。さすがはオールディス、詳細に描きこまれた世界観で読ませる。気球による空中視察、恐竜狩りといった見せ場も面白いが、一番興味を惹かれたのは写真術のくだりであった。


マラキア・タペストリ (サンリオSF文庫)

マラキア・タペストリ (サンリオSF文庫)



『木でできた海』(ジョナサン・キャロル) 

 ジョナサン・キャロル『木でできた海』The Wodden Sea(2001年)。『蜂の巣にキス』Kissing the Beehive(1998年)、『薪の結婚』The Marriage of Sticks(2000年)、そして本作へと続くキャロルの「クレインズ・ビュー三部作」の最終章。クレインズ・ビューという架空の田舎町が舞台になっていて、共通したキャラクターも登場するが、三作はそれぞれ独立したお話になっている。第一作『蜂の巣にキス』は、いつものキャロル作品と違って超自然の要素はないミステリー・タッチ。しかし、親しみやすい登場人物たちの心の動きを平易な文章で丁寧に描いて感情移入させ、最後に残酷な展開で読者を奈落に落とすという流れはこれまでと同じだった。超自然の要素がない分だけ余計に苦々しい。第二作『薪の結婚』はお得意のダーク・ファンタジー。面白かったんだけど、どこか上手くノレずに最後まで行ってしまって、ただただ辛いお話だったなあという印象。で、最終章『木でできた海』の主人公は三部作すべてに登場する町の警察署長フラニー・マケイブ。目の前で死んだ三本脚の犬を埋葬して以来、彼の周囲で奇妙な事件が・・・。ファンタジー色が強く、例によって嫌な展開になるけれど、主人公マケイブの熱いキャラクターのおかげで大分救われている。マケイブが突如老人になってしまう場面がもの凄くリアルで印象に残った。


木でできた海 (創元推理文庫)

木でできた海 (創元推理文庫)



『デブを捨てに』(平山夢明) 

 鬼才・平山夢明の短編集『デブを捨てに』(2015年)。しかし何てタイトルだ。前作『暗くて静かでロックな娘』から2年、全く衰えを知らぬハイテンションな短編が4編収録されている。表題作は終盤にまさかの痛快な活劇に転じて驚かされた。どす黒い笑いの果てに人生の悲哀が滲む「マミーボコボコ」も良い。平山氏の小説は、不快な描写の連続に耐えに耐えたその果てに、予想もつかない感動が待っている。  


デブを捨てに

デブを捨てに


 この項、しばらく続きます。