Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『サム・ペキンパー 情熱と美学』(マイク・シーゲル) 

サム・ペキンパー 情熱と美学 [DVD]

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 『ワイルドバンチ』『昼下がりの決斗』『ゲッタウェイ』等で知られる映画監督サム・ペキンパーの生涯を追ったドキュメンタリー映画サム・ペキンパー 情熱と美学』(2005年)鑑賞。ペキンパーは、スローモーションを駆使した強烈なバイオレンス描写で西部劇への挽歌を奏で、熱狂的なファンを生み出した。自分もペキンパーが残した14本の映画はどれも大好き。『砂漠の流れ者/ケーブル・ホーグのバラード』『ガルシアの首』『戦争のはらわた』などはもちろん、あんまり調子が出ていない『キラー・エリート』『コンボイ』『バイオレント・サタデー』といった後期の作品も。『情熱と美学』は、本人の肉声、常連俳優たち(ジェームス・コバーンアーネスト・ボーグナイン、L・Q・ジョーンズ、アリ・マックグロー他)、家族(妹、娘)、常連スタッフ、伝記作家らへのインタビュー映像を交えながら、ペキンパーの生涯を追っていく。ナレーションは映画監督のモンテ・ヘルマン。ヘルマンはペキンパーの『キラー・エリート』(1975年)に編集として協力しており、またヘルマンの『チャイナ9、リバティ37』(1978年)にはペキンパーが俳優として出演している。両監督を結び付けているのはウォーレン・オーツかな。


 『情熱と美学』は映画監督ペキンパーの偉業を称える一方で、何とも扱いにくい人物であったペキンパーの姿を浮き彫りにしていく。ペキンパーは自分のスタイルを曲げるのを嫌い、ことあるごとにプロデューサーと対立、仕事を干されて、アルコール、ドラッグに溺れ、59歳の若さで亡くなった。インタビューで語られる現場での様子は、今ならパワハラで一発アウトになりそうな感じである。本作を見ていて思ったのは、ペキンパーは生来豪放な性格の持ち主というわけではなくて、自らが描いた西部や戦場に生きる古い気質の男たちの流儀を模倣していたのではないかなあということだった。本当のところは分からないが。いずれにしても相当頑固な人物だったのは間違いないだろう。『情熱と美学』を見終えて印象に残るのは、偉大な映画監督の姿というよりは、何とも扱い辛く偏屈なペキンパーの人物像だ。


 本作では、未見のTVムービー『THE LOOSERS』(1962年 出演リー・マーヴィン)、『NOON WINE』(1966年 出演ジェイスン・ロバーズ、オリヴィア・デ・ハヴィランド)について紹介されているのが嬉しかった。見たいなあ。しかしペキンパーのその後の歩みを考えると、「負け犬」と「昼酒」ってのは何やら暗示的なタイトルではある。


 『情熱と美学』の始めと終わりはジュリアン・レノンのMVのメイキング映像だ。このMVはペキンパー最晩年の仕事と思われる。映像に残ったペキンパーの姿は、59歳と言う実年齢よりも大分老けて見えて、なんとも痛々しい。当時のプロデューサーが語るエピソード(勝手の違う音楽業界の現場でも、己のペースでかましてみせた)が、また何とも痛々しかった。映画はペキンパーの愛したメキシコの風景、蟻に襲われて果てたサソリの屍の映像で幕を閉じる。『情熱と美学』の原題はPASSION & POETRY: THE BALLAD OF SAM PECKINPAH。「情熱と詩情 サム・ペキンパーのバラード」。いささか気恥ずかしいけど、ペキンパーの作風を知っている者、本作でペキンパーの姿を目にした者ならしっくりくるタイトルなのではないだろうか。


(『サム・ペキンパー 情熱と美学』 PASSION & POETRY: THE BALLAD OF SAM PECKINPAH 監督/マイク・シーゲル ナレーション/モンテ・ヘルマン 2005年 120分 ドイツ)