Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

映画映画ベスト10

サンセット大通り [Blu-ray]

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 ワッシュさん「男の魂に火をつけろ!」http://d.hatena.ne.jp/washburn1975/20181030 の「映画映画ベスト10」に投票します。


1位『アメリカの夜』(フランソワ・トリュフォー) 1973年フランス
2位『世界の終り』(ジョン・カーペンター) 2005年アメリ
3位『コリン・マッケンジー もうひとりのグリフィス』(ピーター・ジャクソン) 1996年ニュージーランド
4位『キートンの探偵学入門』(バスター・キートン1924年アメリ
5位『ラストムービー』(デニス・ホッパー) 1971年アメリ
6位『エド・ウッド』(ティム・バートン) 1994年 アメリ
7位『セシル・B・ザ・シネマ・ウォーズ』(ジョン・ウォーターズ) 2000年アメリ
8位『黒薔薇昇天』(神代辰巳) 1975年日本
9位『マチネー土曜の午後はキッスで始まる』(ジョー・ダンテ) 1993年アメリカ 
10位『ビッグ・ムービー』(フランク・オズ) 1999年 アメリ
次点『カメラを止めるな!』(上田慎一郎) 2018年日本 


 「映画映画」といえば様々な切り口があるので、次から次へとタイトルが思い浮かんだ。映画の撮影現場を舞台とした作品に絞っても、プロの現場から自主映画に至るまで多種多様な作品がある。業界人が登場人物の作品となると、映画監督から脚本家、美術スタッフ、俳優、スタントマン等これまた幅広く数多い。


アメリカの夜』(フランソワ・トリュフォー) 1973年フランス

 映画の撮影現場を舞台とした映画といえば、真っ先に思い出すのが『アメリカの夜』。映画(製作)の楽しさ、素晴らしさを、自画自賛に陥ることなく軽やかに描いた素晴らしい映画だと思う。これぞ「映画映画」の金字塔。


 撮影現場を舞台にした映画は、黎明期の映画製作をコミカルに描いたピーター・ボグダノヴィッチの『ニッケルオデオン』、マギー・チャンがボンテージ・ファッションで登場する『イルマ・ヴェップ』、俳優たちが実際の戦場に放り込まれるベン・ステイラーの『トロピック・サンダー/史上最低の作戦』、他にもヴィム・ヴェンダースの『ことの次第』、ジャン=リュック・ゴダールの『パッション』、モンテ・ヘルマンの『果てなき路』、等々・・・。70年代〜80年代のポルノ業界を活写したポール・トーマス・アンダーソンの『ブギー・ナイツ』は我が心の1本なのだけど、「映画映画」というよりは「青春映画」の位置付けなので今回は除外しました。


 プロの現場だけではなくて、自主映画を題材とした映画もたくさんある。映画作りの初期衝動というか、カメラ回してると何やっても楽しいという感覚が伝わってくるのがいい。自主映画作りに励む少年たちがエイリアンと遭遇する『SUPER8/スーパー8』、レンタルビデオの店員がハンドメイド作品を貸し出す『僕らのミライへ逆回転』、コマ撮り映像が楽しかった『マイク・ザ・ウィザード』、最近では『ブリグズビー・ベア』とか。邦画では『桐島、部活やめるってよ』を筆頭に、撮影シーンにYMOが高らかに鳴り響く『1980』、主人公のAV監督が昔撮った自主映画にはちみつぱいの「塀の上で」が流れる『スキンレスナイト』、8㎜小僧といえば大林宣彦の『転校生』、仲里依紗主演版『時をかける少女』、筒井康隆原作のアニメ『パプリカ』、等々・・・。




『世界の終り』(ジョン・カーペンター) 2005年アメリ

 名だたるホラー監督たちが1時間の中篇を競作するという好企画「マスターズ・オブ・ホラー」の一編。1度だけ映画祭で上映されたが見た者は皆発狂、関係者も謎の死を遂げたという幻の映画を巡るお話で、『マウス・オブ・マッドネス』のラストに出てきた究極のホラー映画の別バージョンでもある。ウド・キアーの死に様がいい。自らがフィルムになる・・・。デジタル上映がメインである昨今では、本作で扱われているCIGARETTE BURNS(フィルムチェンジの印)も何のことかわからなくなってしまうのかな。


 ホラーと「映画映画」ジャンルは相性が良いのか、興味深い作品が多い。邦画なら撮影所を舞台にした中田秀夫監督の『女優霊』が突出して素晴らしい。『食人族』、そのバリエーションである『ブレアウィッチ・プロジェクト』、ホラー映画を撮影中の学生たちがゾンビパニックに遭遇する『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』。ロメロは登場人物が死んでゾンビと化した後、監視カメラの映像がその様子を捉えるというところまでやっている。ゾンビパニックで世界が滅亡した後(誰が見るのかは分からないが)、『食人族』よろしく映像だけが残るのである。ウェス・クレイヴンの『エルム街の悪夢/ザ・リアル・ナイトメア』は監督のクレイブンが自分の悪夢をシナリオにしていると、悪夢通りの出来事が起きるという筋書き。ヒロインがフレディに追いまわされて、ふと見るとその辺にシナリオが放ってあり、次の展開が書いてあるなんていうデタラメさが面白かった。オムニバス・ホラー映画『デス・ルーム』の挿話であるモンテ・ヘルマンの『キューブリックの恋人』は、かのスタンリー・キューブリックアメリカを離れてイギリスに移り住んだその訳は・・・というお話。F・W・ムルナウの『吸血鬼ノスフエラトゥ』の撮影現場を舞台とした『シャドウ・オブ・ヴァンパイア』は、主演のマックス・シュレックが本物の吸血鬼だった・・・というお話。ムルナウ監督以下のスタッフが何故か全員白衣を着て工業用ゴーグルをしていて、映画の撮影というよりも、何かの実験のような雰囲気なのが面白かった。




『コリン・マッケンジー もうひとりのグリフィス』(ピーター・ジャクソン) 1996年ニュージーランド

 『ロード・オブ・ザ・リング』の(というか公開当時の認識では『ブレインデッド』の)ピーター・ジャクソンによるフェイク・ドキュメンタリー。ニュージーランドには「コリン・マッケンジー」という歴史に埋もれた巨匠が存在した・・・という設定で、ピーター・ジャクソン監督率いる撮影クルーがその偉業を辿ってゆく。公開当時BOX東中野で見て以来、再見の機会が無い。本作やヴェンダースの『ことの次第』に見られる、「カメラを抱えた主人公が凶弾に倒れ、横倒しになったカメラが回り続けていると」いう映像は、何がオリジナルなのだろう。フェイク・ドキュメンタリーといえば、プロの殺し屋と彼のドキュメンタリーを撮影しているクルー、という設定の『ありふれた事件』なんて怪作もあった。


光と闇の伝説 コリン・マッケンジー [VHS]

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キートンの探偵学入門』(バスター・キートン1924年アメリ

 ウディ・アレンの『カイロの紫のバラ』、シュワちゃん全盛期の『ラスト・アクションヒーロー』等、登場人物がスクリーンを超えて映画の中と現実世界とを行き来する映画の原型。キートン演じる映写技師が映写中に居眠りを始めると、夢の中で映画の中に入り込み、過激なアクションを繰り広げる。何と94年(!)前の映画なのだ。




『ラストムービー』(デニス・ホッパー) 1971年アメリ

 ペルーの山村にオープンセットを建てて西部劇を撮影しているハリウッドの撮影隊。それを見ていた村人たちは撮影機材を模した道具を木で組んで作り、映画の撮影を再現し始める。しかし映画の概念がない村人たちにとって撮影は儀式であり、撃ち合いの場面の再現には実弾が使用される。村人たちに囚えられたスタントマン(デニス・ホッパー)は、もはや壮大なお祭と化した撮影儀式に無理矢理参加させられるのだった・・・。若きホッパーの野心が漲る正に「映画映画」な本作は、隅々までハリウッドに対するラヴ&ヘイトが感じられてとても興味深い。これも再見する機会が無いので、恐らく山のようにあると思われるロストフッテージやメイキングを収録したソフト化を希望。


デニス・ホッパー―狂気からの帰還

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エド・ウッド』(ティム・バートン) 1994年 アメリ

 「史上最低の映画監督」エド・ウッドの伝記映画。ジョニー・デップがノリノリで演じる変人エド・ウッドの可愛らしさ、落ちぶれたスター、ベラ・ルゴシマーティン・ランドー)との友情も胸を打つ。エド・ウッドの作品の珍妙さや悲惨な晩年を知った上でなお、ティム・バートンは自分の信じるもののために闘う姿を全力で賞賛している。


 映画監督を主人公とした映画はフェデリコ・フェリーニの『8 1/2』をはじめとして数多い。イーストウッドジョン・ヒューストンをモデルにした映画監督を演じた『ホワイトハンター・ブラックハート』、ナンニ・モレッティの半ドキュメンタリー『親愛なる日記』『エイプリル』、映画監督が放浪の旅を経て喜劇映画の大切さを再認識するブレストン・スタージェスの名作『サリヴァンの旅』、ウディ・アレンが『8 1/2』を気取った『スターダスト・メモリー』、同じくアレンの『さよなら、さよならハリウッド』ではトラブル続きのプレッシャーで盲目となった監督が撮った映画が出てくる(見ている人物のリアクションだけで、実際のフィルムは映らないが)。コッポラの息子が撮った『CQ』、アベルフェラーラの『スネーク・アイズ』、等々・・・。エミリオ・エステベスが洋ピンの古典『グリーンドア』の兄弟監督ミッチェル・ブラザーズを描いた『キング・オブ・ポルノ』なんてのも。若松孝二の若き日を描く最新作『止められるか、俺たちを』は凄く面白そうなんだけど、残念ながら未見。


 映画監督だけではなくて脚本家が主人公の映画もある。ミシェル・ピコリ演じる脚本家が美人妻(ブリジット・バルドー)とプロデューサー(ジャック・パランス)の板ばさみにあうゴダールの『軽蔑』、ニコラス・ケイジが二役を演じた『アダプテーション』、劇作家のジョン・タトゥーロがホテルに軟禁されレスリング映画の脚本に四苦八苦する『バートン・フィンク』等々。監督や脚本家以外のスタッフが主人公の映画といえば、『イントレランス』の美術スタッフが主人公の『グッドモーニング・バビロン!』、撮影所で働く小道具係(麻生久美子)が主人公の『ラストシーン』、ヴェンダースの『さすらい』は、映画館から映画館へとフィルムを運ぶドライバーが主人公。ヴェンダースは録音技師を主人公にした『リスボン物語』なんてのもある。


 俳優が主人公の映画となると、グロリア・スワンソンが鬼気迫る演技を見せるビリー・ワイルダーの『サンセット大通り』を筆頭に枚挙に暇がない。落ち目の西部劇スター3人組が本物の盗賊と戦う羽目になるジョン・ランディスの『サボテン・ブラザース』、そのSF版『ギャラクシー・クエスト』、売れない女優の地獄巡りを描いたデヴィッド・リンチの『マルホランド・ドライブ』『インランド・エンパイア』、ポルノ業界を舞台にしたデ・パルマのサスペンス『ボディダブル』、フェイ・ダナウェイジョーン・クロフォードを演じたカルト作『愛と憎しみの伝説』、林海象の『夢見るように眠りたい』もこのジャンルか。



『セシル・B・ザ・シネマ・ウォーズ』(ジョン・ウォーターズ) 2000年アメリ

 「撮りたい映画が撮れない」とかウジウジ言っている暇があったら街へ出ろ!カメラを廻せ!ジョン・ウォーターズはそんなガッツを最大限に讃えておきながら、そいつらが凄く迷惑な存在であることもキッチリと描く。また、ハリウッドのヌルい映画をこきおろすが、ハリウッドそのものは大好き。そんな愛憎相半ばする思いも1時間半でしっかり描き切る。ラストは『サンセット大通り』のパロディだったりして、さすがというしかない。ところで、どうやらセシル・B・ディメンテッドにとっては、映画=(ゲリラ)撮影である。ちゃんと作品を完成させて上映しようというなんてこれっぽっちも考えてなさそうだ。セシル・Bが日本に甦ったような快作が園子温の『地獄でなぜ悪い』。ホンモノのヤクザの抗争を撮影してアクション映画を撮影しようという狂気の映画監督のファンタジーで、こちらはちゃんとその先を行って、映画を完成させようとするのがいい。嗚呼、自主映画魂ここにあり。


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『黒薔薇昇天』(神代辰巳) 1975年日本

 1975年製作のにっかつロマンポルノ。「映画」と言っても、主人公が作っているのはいわゆるブルー・フィルム。俺たちがやってるのは「芸術なんや!」と真顔で滔々と語る監督を岸田森がノリノリで演じている。ブルー・フィルムの撮影隊がみせる低予算映画作りに欠かせない涙ぐましい創意工夫の数々がおかしかった。


黒薔薇昇天 [DVD]

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『マチネー土曜の午後はキッスで始まる』(ジョー・ダンテ) 1993年アメリカ 

 映画館を舞台にした映画は、ジュゼッペ・トルナトーレの『ニューシネマ・パラダイス』が有名だけど、個人的にはウェットすぎてちょっと苦手なので、ジョー・ダンテウィリアム・キャッスルのギミック上映を再現した『マチネー土曜の午後はキッスで始まる』を推す。他にもピーター・ボグダノヴィッチが映画館の閉館と青春の終わりをノスタルジックに綴った『ラストショー』、ボリス・カーロフ主演『殺人者はライフルを持っている!』はドライブイン・シアターがクライマックスの舞台になっていた。『グラインドハウス』で映画館体験そのものの再現を試みたタランティーノ。戦争映画『イングロリアス・バスターズ』は映画館がクライマックスになっており、そこで現実を超えた決定的な出来事が描かれる。




『ビッグ・ムービー』(フランク・オズ) 1999年 アメリ

 スティーブ・マーティン脚本・主演のコメディ。弱小プロダクションが再起を賭けて映画作りに励む・・・というと何だか立派な気がするが、撮る映画は懐かしの侵略SFで、どう聞いても馬鹿映画にしかならないような脚本を「傑作だ」と入れ込む監督はまるでエド・ウッド。しかもお目当てのアクションスターと契約が取れないので、あの手この手で段取りを付けて、一発勝負の隠し撮り。編集で無理やり映画にねじ込む力技に泣けた。いささかユルいが楽しい映画だった。




カメラを止めるな!』(上田慎一郎) 2018年日本 

 映画製作を題材とした映画では、実録ものを除けば出来上がった作品を目にすることはない。そういった意味で『カメラを止めるな!』はあの監督、あのスタッフ、あのキャスト、あの現場のドタバタの結果生み出された映画をフルで見せてくれる。しかも仕掛けの多いホラー映画をワンカットで撮るという無謀な企画であり、出来上がった作品の不出来がそれ自体映画の面白さになっているというアクロバティックな映画なのだ。


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 そういえば、デ・パルマの『悪夢のファミリー』、アラン・タネールの『白い町で』、ヴェンダースの『パリ、テキサス』とか、「ホームムービー」という切り口もあるなと。かように「映画映画」の世界は際限なく広がっていくのであった。