Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

2021年の10本

 

アメリカン・ユートピア [Blu-ray]

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  • デイヴィッド・バーン
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 昨年、劇場で見て印象に残った映画を10本挙げておきます。ベスト10選定できるほどたくさん通うことが出来なかったので、印象に残っている10本ということで。

 

アメリカン・ユートピア』 (スパイク・リー) 2020年 アメリ

 デヴィッド・バーンのアルバム『アメリカン・ユートピア』(2018年)を原案に作られたブロードウェイのショーを、スパイク・リーが映画として再構築したライヴ映画。バーンにはすでに『ストップ・メイキング・センス』というライヴ映画の金字塔がありますが、本作はそのアップデート版といえるでしょう。これはもうオールタイム・ベスト級の素晴らしさで、コロナ禍の沈んだ気持ちを吹き飛ばしてくれました。あまりに嬉しくて2回劇場に足を運びました。心からトーキングヘッズ/デヴィッド・バーンのファンやってて良かったと思いましたね。スパイク・リーの刻印もしっかり押されていて、ブラック・ライヴス・マター案件の切れ味は勿論、スパイク・リーらしさに嬉しくなったのはエンディング。ライヴを終えて裏口から私服で出てきたバーンが自転車で帰途に就く。この場面の「おおニューヨーク!」という空気感。続くクレジットでは、劇中言及されてた高校の合唱部バージョンと思われる曲をバックに、バンドメンバーが自転車でニューヨークの街を疾走する。最高。

 

 

『ラストナイト・イン・ソーホー』(エドガー・ライト) 2021年 イギリス

 大好きなエドガー・ライト監督の新作。本作でも華麗な映像テクニックが存分に発揮されていて、60年代への憧憬、音楽への愛、ホラー映画への愛が映像から溢れ出します。トーマシン・マッケンジー、アニャ・テイラー=ジョイという旬の女優の魅力、テレンス・スタンプ、ダイアナ・リグ、リタ・トゥシンハイムらイギリス映画のレジェンド俳優のゲスト出演。ただ、ドラマとしては監督の嗜好や目指すところと着地点に若干の齟齬があるように感じて、脚本の構築に今一つ詰めが甘かったのかなという印象です。エドガー・ライト監督の次回作は、何とスパークスのドキュメンタリーだそうです。楽しみ。

 

 

『鵞鳥湖の夜』(ディアオ・イーナン) 2019年 中国/フランス 

 早稲田松竹にて鑑賞。ディアオ・イーナン監督による中国ノワール二本立て『薄氷の殺人』『鵞鳥湖の夜』の嬉しいプログラムでした。『鵞鳥湖の夜』は追い詰められた男女のドラマ、ネオンが妖しく灯る映像美、湿った世界観とアクションの切れ味はどことなく石井隆の映画を連想しました。併映の『薄氷の殺人』は雪景色が印象的なミステリーで、こちらも面白い。両作の女優グイ・ルンメイも好みでした。イーナン監督の演出は、まだ完成されていないという印象ですが、映像の造形や編集に冴えたセンスを感じるので今後の作品が楽しみです。

 

 

ノマドランド』(クロエ・ジャオ) 2021年 アメリカ   

 本物のノマド多数出演によるドキュメンタルな演出と、西部劇の昔からアメリカ映画が得意とする広大な風景と個人の対比。貧困層の高齢者が季節労働を強いられているというアメリカの現実が背景にありますが、社会派の告発が主眼ではなくて、生き方の選択についての映画でした。貧困によりノマド生活を強いられるというよりは、主人公自らその生き方を選んでいるように描かれています。劇中では2度定住の誘いがありますが、主人公は結局ノマド生活に戻っていきます。妹との会話からは以前からその傾向があったことがわかるし、自らホームレスではなくハウスレスだと語る場面も。リアリズムの映画ならば、貧困の現実やもっと嫌な事件、危険な局面も描かれるであろうと思いますが、そこはさらりと流しています。評価の分かれ目はそこかなと思いますが、個人的にはとても良い映画だと思いました。

 

 

『シカゴ7裁判』(アーロン・ソーキン) 2020年 アメリカ          

 1968年、シカゴの民主党大会においてベトナム反戦デモ隊と警官隊が衝突。デモ隊を扇動したとされる通称<シカゴ7>裁判の顛末を描く実録ドラマ。これぞアメリカ映画、漲る改革への熱い思い、反体制の強い意志。多種多様なキャラクターの出し入れが見事で、エディ・レッドメインサシャ・バロン・コーエン、ジョゼフ・ゴードン=レヴィットら俳優陣も個性を発揮していて、群像劇としてかなり面白かった。先日読んだ『幻に終わった傑作映画たち』によると、本作は元々スピルバーグが監督する予定だったとのことです。この題材は意外なセレクトに思えますが、注目されるきっかけとなった自主映画『Amblin'』が1968年の作品なので、実はスピルバーグ自身同時代の若者だったりします。

 

 

『Mank/マンク』(デヴィッド・フィンチャー) 2020年 アメリ

 映画史に輝く名作『市民ケーン』脚本執筆の舞台裏を描いた、大変興味深い作品。脚本はフィンチャーの父ジャック。先日読んだ『幻に終わった傑作映画たち』にフィンチャー監督が抱えている企画のひとつとしてタイトルが挙がっていました。モノクロの深い陰影と時代の再現、フィンチャー監督らしく非常に丁寧に作りこまれた映像と、ゲイリー・オールドマンが人間臭く演じる映画人のドラマは見応えがありました。「幻に終わった」企画のひとつにフィンチャー版『ブラック・ダリア』があります。そう、エルロイ原作の『ブラック・ダリア』。完成したデ・パルマ版も嫌いではないけれど、こんな映像であの話を見て見たかったなあと思います。

 

 

『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』 (ジェームズ・ガン)2021年 アメリ

 ガン監督の作品は、脚本作『ドーン・オブ・ザ・デッド』から監督作『スリザー』『スーパー!』『ガーディアン・オブ・ギャラクシー』等、ずっと見続けていますが、本作は彼の持ち味がメジャーフィールドで存分に発揮された快作(怪作)だと思います。クライマックスの巨大ヒトデエイリアン(『宇宙人東京に現る』風?)大暴れにはよくぞここまでやってくれたと嬉しくなりました。多彩な登場人物の描き分け、バリエーション豊かなアクション演出、何よりテンポの良さが素晴らしい。人体破壊描写のオンパレードにはいささかついていけないところもありますが。収監されていた悪党が選抜されて危険な極秘任務に挑むという筋立てはオルドリッチの『特攻大作戦』路線。『特攻大作戦』で「ダーティ・ダズン」(原題)と呼ばれる悪党たちが最後には数名しか生き残れなかったように、本作でも物々しく登場する悪党たちは次々(間抜けな死に方で)退場していきます。ハーレイ・クイン以外は馴染みのない顔触れなので、誰がいつ死ぬのか予測がつかず、この辺がサスペンス要素に(ギャグ要素にも)なっていました。

 

 

子供はわかってあげない』(沖田修一) 2021年 日本

 予告編の印象では今どきの駄目邦画かなと思っていましたが、これが予想を上回る感動作、正しい青春映画でした。主演上白石萌歌の魅力でラストまで引っ張ります。主人公の男女をちゃんと応援したくなるので、終盤で門司君(細田佳央太)に屋上で告白する場面は盛り上がりました。ここは名セリフ名演技の応酬で、思い出してもグッときます。千葉雄大古舘寛治斉藤由貴豊川悦司ら助演陣も良い味を出していました。映画版がとても好きだったので、原作も読んでみました。田島列島子供はわかってあげない』(2014年)上下巻。映画は原作の健全な雰囲気をきちんと伝えていたなと感心しました。

 

 

『ドライブ・マイ・カー』(濱口竜介) 2021年 日本

 米アカデミー賞ノミネートで再び盛り上がっている本作。心配だった3時間の長尺も全く気にならず。人物の切り取り、時折挿入される外景ショット、繰り返される車の移動、とどれもちゃんと映画らしくて(貧乏臭くなくて)安心して見ていられました。登場人物が感情を吐露する場面でも、ちゃんと抑制が効いていて恥ずかしくない。隙あらば性的なものを入れてこようとするのは原作者村上春樹のテイストか。短編を膨らませ重層的で見ごたえのあるドラマを構築していたと思います。西島秀俊三浦透子霧島れいか岡田将生ら俳優も良い。中でも岡田が凄くキャラが立っていて助演賞ものだろうと思いました。

 

 

『モンタナの目撃者』(テイラー・シェルダン) 2021年 アメリ

 テイラー・シェルダンは脚本作『ボーダーライン』『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』、監督作『ウインド・リバー』が好きだったので、新作は劇場に足を運んでみました。これが期待通りの、実にオーソドックスなサスペンス活劇でした。キャラクター造形(仕事に疲れ切った殺し屋コンビが良い)、ロケーション(森林の監視塔)、鋭いアクション、サスペンスの持続感、あっさりした幕切れ、全てがいい塩梅。2時間以内(100分)できっかり終わるのも良い。映画史に残る大傑作とかそんなのではないですが、このクラスの新作アメリカ映画を毎月1本でも見れたら最高だろうなと思います。

 

 コロナ禍で人ごみに向かうのが躊躇われたのと、緊急事態宣言下で一時レイトショーが中止となっていたこともあって、21年は劇場鑑賞の本数が激減してしまいました。現在の仕事と生活のサイクルではレイトショーやってないとなかなか映画館に行く時間が作れないのです。今年はもっと多くの作品を、シネコンでかかっているようなメジャー作品だけではなく、多種多様な作品に触れたいと思います。できるといいな。