Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『ウエスト・サイド・ストーリー』(スティーヴン・スピルバーグ)

 スティーヴン・スピルバーグ監督『ウエスト・サイド・ストーリー』鑑賞。『ロミオとジュリエット』を基にしたブロードウェイ・ミュージカルを、ロバート・ワイズ監督『ウエスト・サイド物語』(1961年)以来60年ぶり2度目の映画化。ワイズ版は子供の頃にTVの吹替洋画劇場で見たきりなので全く覚えていなくて、ほとんど白紙状態でした。しかし劇中のミュージカルナンバーは様々な映像や番組を通じて聴き覚えのあるものが多くて、さすがは名作だなと思いましたね。

 

 公開後Twitter等で目にした感想では、ミュージカル映画なのに何故か音楽やダンスではなく撮影に言及しているものが多くて、どういうこと?と思っていました。これは見て納得。スピルバーグ作品常連のヤヌス・カミンスキーによるダイナミックなカメラワーク、特徴的な渋い色調、加えてこれまでもこのコンビが好んで描いてきた廃墟や瓦礫の山があちこちに映し出されて、主人公たちのドラマを盛り上げます。スピルバーグの演出はミュージカル場面はもちろん、アクション場面もさすがの切れ味で、156分の長尺も気になりませんでした。

 

 予想よりはずっと面白かったのですが、正直のところ、スピルバーグが何故これをリメイクしたのかという辺りはいまひとつわかりませんでした。再開発で都市が変化を迎えた時代、底辺で暮らす若者たちが争いを繰り返すドラマにそこまで思い入れているとも思えず。最後に「父へ」と献辞が出るので、オリジナル版(1961年)か舞台版に何らかの個人的な思い出があるのかもしれません。もしくは自作でオールジャンル制覇してやろうという映画狂らしい野心なのかもしれません。

 

 ワイズ版のキャストでもあるリタ・モレノがしみじみと歌う「Somewhere」。これもどこかで聴き覚えがあるなと思ったら、トム・ウエイツがカヴァーしているのだった。(『Blue Valentine』1978年収録)

 

 

『ウエスト・サイド・ストーリー』 West Side Story   

監督/スティーヴン・スピルバーグ 脚本/トニー・クシュナー 撮影/ヤヌス・カミンスキー 音楽/レナード・バーンスタインデヴィッド・ニューマン

出演/アンセル・エルゴート、レイチェル・ゼグラー、アリアナ・デボーズ、デヴィッド・アルヴァレス、マイク・ファイスト、リタ・モレノ 

2021年 アメリ