Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『ブレージングサドル』(メル・ブルックス)

 

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  • クリーボン・リトル
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 先日の「MGG Jazz Buddy」LIVEの後、そういえばカウント・ベイシーって映画絡みの仕事はしてないのかなと思い、検索してみました。そしたら意外なタイトルがヒットしました。何とメル・ブルックス監督の『ブレージングサドル』!

 

 という訳で、『ブレージングサドル』(1974年)再見。『プロデューサーズ』『ヤング・フランケンシュタイン』『スペース・ボール』等で知られるパロディ大将メル・ブルックス監督によるコメディ西部劇です。

 

 悪徳政治家ラマー(ハーヴェイ・コーマン)は、西部の町ロックリッジから住民を追い出して、土地を奪い取ろうと画策していた。ラマーは黒人奴隷の鉄道人夫バート(クリーヴォン・リトル)をロックリッジの新しい保安官に任命する。黒人保安官の登場に、ロックリッジの保守的な住民たちは騒然となる。さらにラマーはならず者を送り込むなど住人が出ていくように次々嫌がらせを仕掛ける。ラマーの陰謀を知ったバートは、留置所で知り合った酔いどれの元腕利きガンマン、ジム(ジーン・ワイルダー)と組んで逆襲を開始した・・・。

 

 本作は西部劇のパロディ、というかメル・ブルックス特有の悪ふざけが全編に渡って展開します。ギャグはあんまり映画的とは言えない小ネタが延々と続くので、これは如何なものかな・・・と思っていたら、クライマックスの展開には度肝を抜かれました。ラマーに雇われた悪党軍団がやってくることを知ったバートと町の住人たちは、書割で作った偽の町に誘い込みます。ここからは西部劇の世界から逸脱して、突如メタな世界へと展開。西部の町(オープンセット)から撮影所、映画館へと至る終盤の展開は、(恐らく)監督本人にその気はないのに、馬鹿騒ぎしてる内にうっかり映画の本質(虚構性)に触れちゃったというような奇妙な面白さがあります。ちょっとモンティパイソンの『ホーリーグレイル』のラスト(アーサー王と円卓の騎士の世界に警官隊が突入する)を思い出したりして。最後にジーン・ワイルダーが手にしているポップコーンが印象的です。

 

 主演はクリーヴォン・リトルクリーヴォン・リトルと言えば、マイ・オールタイムベスト入りの大傑作『バニシング・ポイント』のDJスーパー・ソウルですよ。本作ではかなりベタな役柄ですがさらりとスマートに演じています。共演は70~80年代に活躍した人気コメディアン、ジーン・ワイルダー。この人の顔を見ると、自然に広川太一郎の吹替が聞こえるような気がします。脇役ではサム・ペキンパー作品等で知られるスリム・ピケンズの姿も(馬鹿な役で気の毒)。

 

 で、肝心のカウント・ベイシーはと言いますと、本作にはベイシーと彼の楽団がワンシーンだけゲスト出演しているのでした。ゴージャスな音楽をバックに、保安官となったバートが颯爽と登場する場面。馬に乗ったバートが荒野を進んでいくと、BGMじゃなくて、荒野の真ん中に何故か本物の楽団がいて生演奏していた!・・・というギャグシーン。これが何とカウント・ベイシー楽団なんですね。クリーヴォン・リトルとベイシーが笑い合うショットがあったりして、ベテランの黒人エンターティナーと若き黒人俳優がクロスする瞬間がちょっとグッときます。それにしてもメル・ブルックス、西部劇とカウント・ベイシーってのがどういう繋がりなのかはわかりませんが。

 

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ブレージングサドル』 Blazing Saddles

監督/メル・ブルックス 脚本/メル・ブルックス、ノーマン・スタインバーグ、アンドリュー・バーグマンリチャード・プライヤー、アラン・ユーガー 撮影/ジョゼフ・バイロック 音楽/ジョン・モリス

出演/クリーヴォン・リトルジーン・ワイルダー、ハーヴェイ・コーマン、マデリーン・カーン、スリム・ピケンズ、メル・ブルックス、アレックス・カラス

1974年 アメリ