Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『LAヴァイス』(トマス・ピンチョン)

 

 

 トマス・ピンチョン『L.A.ヴァイス』 Inherent Vice(2009年)読了。主人公はロサンゼルスに住むマリファナ中毒のヒッピー探偵ドック・スポーテッロ。ある日、元恋人のシャスタが現れ、助けを求めてきた。現在シャスタは不動産王ミッキー・ウルフマンの愛人となっていて、あるトラブルに巻き込まれていると言う。渋々仕事を引き受けるドックだったが・・・というお話。

 

 カルト人気を誇るトマス・ピンチョン作という事で身構えて読み始めたら、意外にオーソドックスな探偵小説じゃないですか。ヒッピー探偵がドラッグで酩酊状態になりつつ事件を捜査するというオフ・ビートなお話ですが、主人公がどんな陰謀に巻き込まれているのかよく分からないままお話が進み、聞き込みしたりボコられたりあれこれ行動しているうちにいつの間にか事件が解決しているというあたりはむしろハードボイルド・ミステリーそのものと言えるかも。

 

 60年代終わり~70年代アメリカ西海岸の様子が生き生きと描かれているのも見どころ。当時のヒッピー、ドラッグ、音楽カルチャーがふんだんに織り込まれ、それらと土地開発や麻薬取引を巡るトラブル、金持ちを軟禁する精神科医、ゴールデン・ファング(黄金の牙)という謎の組織、といったいかにもハードボイルドミステリーらしい要素が混然となって実に面白い。

 

 映画版(ポール・トーマス・アンダーソンインヒアレント・ヴァイス』2014年)はかなり原作に忠実だったと思います。今度見直してみよう。映画版で主人公ドックを演じたのホアキン・フェニックス。ポスターの絵柄はドラッグでトリップ中なのかどんよりした目つきの主人公で、これ最初に見た時にジョン・ベルーシかと思ったんだよね。