Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『アネット』 (レオス・カラックス)  

 

 レオス・カラックスの最新作『アネット』が、何と最寄りのシネコンにかかってるではないですか。長くはやってないだろうと思い、慌てて見に行きました。身勝手なコメディアン(アダム・ドライヴァー)と売れっ子オペラ歌手(マリオン・コティヤール)の悲恋と、2人の娘アネットの数奇な運命を描くミュージカル映画(ダンスは無し)。予想していたものと随分違う映画だったので驚きました。カラックスってこんな作風だっけ?初期の3本『ボーイ・ミーツ・ガール』『汚れた血』『ポンヌフの恋人』は公開当時劇場で見ている同時代の作家ですが、『ポーラX』に何か引っかかるものを感じて以降は興味を失っていました。チェックを怠っている内に、こんな作風になっていたとは。

 

 本作でカラックスはミュージカルという非現実的の最たるスタイルを使い、思いっきりベタなお話(メロドラマ)を大仰で人工的な画面で演出しています。ミュージカルなんだから、感情の盛り上がる場面では常に歌うのだとばかりにベッドシーンまでも歌い続けるという辺りはようやるわいと感心。タイトルロールのアネット(主人公男女の娘)がマペットで表現されるに至り、これは徹底しているなと。その自由な演出を大いに楽しみました。マペットからの連想ですが、もしかして日本の古典芸能(人形浄瑠璃の世話物とか)に近い世界観だったりしますかね。いや、詳しくは知らないですが。OPのさあミュージカル映画が始まるぞというワクワクするような感じ、またEDの大団円的な雰囲気も好きでした。作風は随分変わっていますが、カラックス作品で印象的な夜の(バイク)疾走シーンは今回も繰り返し出てきます。

 

 主演はアダム・ドライバーマリオン・コティヤール。個性的な風貌のアダム・ドライバーは『スター・ウォーズ』他メジャー作品からジム・ジャームッシュ、スコセッシ、スパイク・リーテリー・ギリアムリドリー・スコット錚々たる監督の作品まで起用される売れっ子。ミュージカルという軽やかな雰囲気からは縁遠いイメージの俳優ですが、そんな彼が歌う意外性も面白い。本作では古舘寛治氏が産婦人科医の役で出演してました。出てるの知らなくて、何だか似てる髭の人が出てるなあ歌まで歌ってるしと思ったらご本人でした。

 

 『アネット』の音楽はスパークスラッセル・メイル、ロン・メイル)。オープニングには本人たちも出演しており、飄々とした雰囲気でとても恰好良かった。ちょうどドキュメンタリー『スパークス・ブラザーズ』(監督は大好きなエドガー・ライト!)が公開されているので、こちらも見に行きたいと思います。 

 

 

『アネット』 Annette 

監督/ レオス・カラックス 脚本/レオス・カラックスラッセル・メイル、ロン・メイル 撮影/カロリーヌ・シャンプティエ 音楽/ラッセル・メイル、ロン・メイル 出演/アダム・ドライバーマリオン・コティヤール、サイモン・ヘルバーク、デヴィン・マクダウェルスパークス 

2021年 フランス/ドイツ/ベルギー/日本/メキシコ