Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』(ウェス・アンダーソン) 

 

 ウェス・アンダーソン監督『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』鑑賞。ウェス・アンダーソンの映画ってセンス良すぎて嫌味に感じることがありますが、本作はとても軽やかで、楽しい映画でした。舞台はフランスの架空の都市。雑誌「フレンチ・ディスパッチ」の編集長(ビル・マーレイ)が亡くなり、廃刊が決まった。最終号には個性的な記者たちが腕によりをかけた4本の記事が掲載される・・・。雑誌の記事を再現するというスタイルで綴られたオムニバス映画です。

 

 最初は記者(オーウェン・ウィルソン)が自転車で軽やかに走りながら、編集部がある街の名所を紹介するエピソード。2話目は、殺人で服役中の画家(ベニチオ・デル・トロ)と獄中でモデルをつとめる看守(レア・セドゥ)、彼の作品を売り出そうとする美術商(エイドリアン・ブロディ)のエピソード。記者はティルダ・スウィントン。3話目は、学生運動のリーダー(ティモシー・シャラメ)と、彼を取り巻く学生たちのエピソード。記者はフランシス・マクドーマンド。4話目は、美食家の警察署長(マチュー・アマルリック)の息子が誘拐され、お抱えシェフ(スティーヴン・パーク)の活躍で事件が解決するまでを描くエピソード。記者はジェフリー・ライト

 

 上記の出演者の他にも、エドワード・ノートンジェイソン・シュワルツマンウィレム・デフォークリストフ・ヴァルツシアーシャ・ローナンらも顔を見せるという物凄い豪華キャストです。凝った役作りで登場する俳優たちを見ているだけでも楽しい。中でも、獄中の芸術家のミューズを演じるレア・セドゥの存在感が凄かったなあ。 

 

 ウェス・アンダーソンの映画はちょっと映像が凝り過ぎで息苦しさを感じます。『天才マックスの世界』『ダージリン急行』『犬ヶ島』は大好きですが、『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』『ライフ・アクアティック』なんかは苦手でした。本作も、例によって細部までキッチリ作り込まれた映像です。デザインされ尽くしたというか。でも「雑誌」という題材と映像スタイルがうまく噛み合っているからでしょうか、それほど息苦しさは感じませんでした。個々の描写もこれまでよりずいぶん軽やかな印象です。三話目の「フランスで学生たちを描くならこうでしょ」と言わんばかりのヌーヴェルヴァーグっぽさ、四話目のアクション演出も意外な面白さでした。雑誌のバックナンバーを紹介するエンディングの遊び心が嬉しい。

 

 

『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』 The French Dispatch of the Liberty, Kansas Evening Sun 

監督・脚本/ウェス・アンダーソン、撮影/ロバート・D・イェーマン、音楽/アレクサンドル・デスプラ      出演/ビル・マーレイフランシス・マクドーマンドオーウェン・ウィルソンジェフリー・ライトティルダ・スウィントンベニチオ・デル・トロ、レア・セドゥ、ティモシー・シャラメマチュー・アマルリック 

2021年 アメリカ