Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』(エドガー・ライト)

 

 エドガー・ライト監督の旧作『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』(2013年)再見。この映画は封切時、シネリーブル池袋で見ました。ゲイリー(サイモン・ペッグ)は学生時代に町のパブ12軒ハシゴ酒に挑戦し失敗。それから20年後、ゲイリーは幼馴染たちを招集し、一晩で12軒のパブでハシゴ酒に再挑戦するべく故郷の町へと帰ってきた。12軒目のパブ「ワールズ・エンド」目指して飲み歩きを開始するが・・・というお話。というかこれは発端に過ぎず、予想外の展開を見せていきます。監督は『ラストナイト・イン・ソーホー』『スパークス・ブラザーズ』と快作を連発しているエドガー・ライト。出演はサイモン・ペッグニック・フロストパディ・コンシダインマーティン・フリーマンエディ・マーサン、ピーター・ペイジ、ロザムンド・パイクピアース・ブロスナンほか。     

 

 個人的な話を少し。中学時代からの親しい友人であるT君が音信不通となって、もうずいぶん経つ。以前はしょっちゅう飲みに行ったり映画見に行ったりして遊んでいた。帰省した時など、彼が号令をかけて地元の友人たちが集ったものだった。最後に会ったのは2008年の夏か。自分が仙台に転勤となり関東を離れている間、彼も転職・引越しと転機を迎えていた様子だった。その後メールのやりとりなどはあったが、いつの間にか住所も携帯の番号も変わったようで連絡が取れなくなってしまった。共通の友人の結婚式にも来なかった。一方的に関係を断たれるとは思ってもいなかったので戸惑った。何か彼を傷つけるようなことしてしまったのかなと随分悩んだ。でも自分だけじゃなくて、他の友人たちもT君の新しい連絡先、現在の居所を知らないという。交友関係において非常に細やかな男だったので、きっと何か思うところがあって敢えてこちらをシャットアウトしてるんだろうなと思った。もしかして会いたくないと思わせるような失礼なことをしてしまったのではないか、そう思うととても辛かった。でもみんな大人だし、それぞれの考えや生活がある。いずれまた連絡が来て、以前のような友人関係が復活するかもしれない。そんな期待はあったが、それからもう長いこと経ってしまった。

 

 何で急にそんな話を書いたかというと、主人公ゲイリーがまるでT君に見えたんですよ。黒のロングコートを羽織っておどけた様子の丸顔のT君が帰ってきたような気がしました。だから劇場で見た時には印象的だったどころではなくて、もう隅から隅まで何だか他人事とは思えなかった。泣くような映画じゃないのに、ガッチリと心情にリンクしてしまって、感情移入しまくり。既にご覧になった方は「あんなコメディで!?」と思われるかもしれませんが。映画は怒涛のクライマックスを経て、始まりからは予想もつかないかなり飛躍した世界になるのだけれど、それがあるおかげでかろうじて「映画」と思えたというかね。

 

 久しぶりに再見して、少しは冷静になったもののやはりぐっとくる映画でした。今回強く感じたのは、エドガー・ライトの故郷の町に対する思いでした。片やホラー・アクション、片やSFコメディとジャンルは違えど、これって基本『ホットファズ 俺たちスーパーポリスメン!』と同じ話だなと。エドガー・ライトの故郷に対する愛憎が手に取るように伝わってきます。両作には元007俳優の起用という共通点もあったりして。そしてエドガー・ライト最大の特徴である編集の技。快テンポ、アクションつなぎの面白さ、編集の上手さはもう岡本喜八レベルですよ!パブで乱闘が始まり、その中で何とかビールを飲もうとする場面とか最高です。

 

 もし本作のゲイリーのように、20年ぶりにT君が姿を現したら・・・。12軒のパブハシゴ酒でも12本映画館ハシゴでも何でも付き合うよ。