『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』(2021年)鑑賞。007シリーズ第25作目、ダニエル・クレイグがジェームズ・ボンドを演じる5本目にして最終作。監督はキャリー・ジョージ・フクナガ。当初監督するはずだったダニー・ボイルは途中降板したようです。
どうやら007シリーズのファンにはあんまり評判よろしくないダニエル・クレイグ版ですが、個人的には悪くないと思っています。下ネタジョークを飛ばしながらスマートなアクションを決めるかつてのボンドがお好みのファンにはお気に召さないのでしょうが、『カジノ・ロワイヤル』『慰めの報酬』『スカイフォール』『スペクター』と殺気立ったクレイグボンドはアクションも本気度が高くて、これはこれでアリなんじゃないかなと。
ただ、前作『007 スペクター』で気になったのは、宿敵スペクターの首領プロフェルド(クリストフ・ヴァルツ)との関係性でありました。肉親ネタ、過去の因縁話が始まるととたんにスケールが小さくなってしまうので、世界を股にかけるスパイ(と世界征服を企む悪党)にそんなお話は不要じゃないかと思ったものです。しかしこの辺は、本作『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』を見て、ああそうだったのかと。本作ではスパイ映画に相応しくないあれやこれやがさらに大胆に盛り込まれていて、これは007シリーズそのものを終わらせてしまおうという企画だったとのかと納得しました。稀代のプレイボーイとして世界各国で浮名を流すジェームズ・ボンドが、1作目の女性(エヴァ・グリーン)への想いを持ち続け、さらには4作目で出会った相手(レア・セドゥ)と本気の関係を結ぼうとする。この点だけでも従来のシリーズとは異色ですが、本作ではさらに踏み込んだ展開を見せています。長きに渡る、ある意味マンネリが味となっているシリーズものを一旦リセットしてやろうという強い意志が感じられ、映画としてもちゃんと実現されているのでスリリングだなあと思いましたね。
ボンドが退職している間に007ナンバーが別の人物に振り当てられていたり、盟友フェリックス・ライター(ジェフリー・ライト)が殉職したり、宿敵スペクターがあっさり全滅したり、あれこれ盛り込まれていて、163分の長尺も気になりませんでした。アクションの見せ場では、冒頭のイタリアのシークエンス(またもマックィーンばりにバイクを駆るダニエル・クレイグ)、中盤のキューバのシークエンス(アナ・デ・アルマスが大活躍)等楽しめます。ボンドカーや秘密兵器の見せ場もちゃんとあります。悪役ラミ・マレックはちょっと見せ場に乏しかったかな。
鑑賞後、ふと故・伊藤計劃氏なら本作をどう見たかなと思いました。007シリーズへのオマージュ短編『From the Nothing, With Love.』などスパイ映画になみなみならぬ思い入れがあったと思しき伊藤氏ならどんな感想を持ったのだろうか。感動的なフィナーレの後、しれっと「ジェームズ・ボンドは帰って来る」といつもの字幕で終わることに反応してたかもなあ。
『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』 No Time to Die
監督/キャリー・ジョージ・フクナガ 脚本/ニール・パーヴィス、ロバート・ウェイド、キャリー・ジョージ・フクナガ、フィービー・ウォーラー=ブリッジ 撮影/リヌス・サンドグレン 音楽/ハンス・ジマー
出演/ダニエル・クレイグ、ラミ・マレック、レア・セドゥ、ラシャーナ・リンチ、ベン・ウィショー、ナオミ・ハリス、ビリー・マグヌッセン、アナ・デ・アルマス、ジェフリー・ライト、クリストフ・ヴァルツ、レイフ・ファインズ
2021年 イギリス/アメリカ