Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『いとみち』(横浜聡子)

 

 横浜聡子監督『いとみち』(2021年)。津軽弁訛りで極度の人見知りの女子高校生(駒井蓮)が一念発起しメイドカフェでアルバイトを始め、次第に成長していく。津軽弁の女子高生、三味線、メイドカフェ、という奇妙な取り合わせの青春映画。なんだけど、奇をてらったところは全くなくて、物凄く丁寧に作られた好感度の高い映画でした。

 

 横浜聡子監督は出身の青森を舞台に、全編方言で通し、オールロケで、しかも青森の歴史も交えて腰の据わった演出ぶり。田舎の高校生の感覚(ローカル線に乗って県庁所在地まで出ていくことがそもそも一大事という活動範囲とか)がきちんと描かれていて、三味線の修理をする場面、博物館での授業といったドキュメンタルな演出も良い。あれこれあって、クライマックスは主人公がメイドカフェで三味線演奏をする場面になりますが、それがそれ以上展開するわけでもなく、ぷっつり終わるところが妙にリアルだった。もうひと押し、映画っぽいところがあれば・・・と思っていたら、ラストショットが正にそんな期待に応えるもので満足。

 

 主演の駒井蓮も青森出身のようで、難しい役を頑張ってものにしていたと思います。主人公の友人がイヤホンで聴いているのが意外なバンドで、一瞬エッと思ったがそうか郷土出身なのか。さておき田舎の青春というキーワードはこちらの琴線に触れるものがありました。

 

 本作は少し前に早稲田松竹にて、邦画青春映画二本立てで見ました。併映作品は『子供はわかってくれない』。続けて見たらこっちにも主人公の父親役で豊川悦司が出てきたのでギョッとしました。以前にも増して怪しげな雰囲気を漂わせるようになってきたような。 

 

『いとみち』 
監督・脚本/横浜聡子 撮影/柳島克己 音楽/渡邊琢磨 原作/越谷オサム 
出演/駒井蓮黒川芽以、横田真悠、中島歩、古坂大魔王ジョナゴールド、西川洋子、豊川悦司 
2021年 日本