Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『A Day In The Life』(安西水丸)

 

 村上春樹とのコラボレーションで知られるイラストレーター、安西水丸のエッセイ『A Day In The Life』(2016年)読了。雑誌「「チルチンびと」(スローライフ系の住まい選びの雑誌)の連載をまとめたもの。安西氏は2014年に亡くなっているので、死後出版されたもののようです。

 

 掲載された雑誌の趣旨に沿って、少年時代に暮らした千葉・千倉、赤坂の生家、結婚しての井の頭、ニューヨーク、渋谷区のマンション、鎌倉の別宅(仕事場)、といった氏が暮らした家周りの話題が中心。特に少年時代を過ごした千倉のエピソードは繰り返し繰り返し語られています。過度にノスタルジックにならず、スローライフの押し売りもなく、絵も文章も適度な塩梅で楽しく読み終えました。ここしばらく仕事と家庭のプレッシャーでテンパっているので、いい気晴らしになりました。

 

 安西氏は「イラストレーターになるためには、イラストを発注する側の仕事の仕組みを知っていなければならない」として、最初は広告代理店に勤めてサラリーマンをやっていたそうです。偉いなあ。氏のイラストは、一見誰でも描けそうに見えて絶対に真似できない絶妙のユルさで、あの何とも言えぬ描線を獲得するに至るまでにはいろいろあったのだろうなあと思います。

 

 本のタイトルはウェス・モンゴメリー『A Day In The Life』(1967年)から。気になったのでこちらもYouTubeでチェックしてみました。タイトル曲は勿論ビートルズナンバーのカヴァー。ちゃんと聴かないと気が付かないかもなあというくらいムーディーなアレンジで格好良かった。