Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『ポゼッサー』(ブランドン・クローネンバーグ)

 

 早稲田松竹にて、『ポゼッサー』『TITANE/チタン』二本立て。題して「ジュリア・デュクルノー×ブランドン・クローネンバーグ ボディ・ホラーの継承者たち」。「ボディ・ホラー」とは何ぞや。デヴィッド・クローネンバーグ塚本晋也に代表される、肉体が変容していく恐怖(と歓び)をテーマにした映画群。その最新版を提示しようという二本立て企画です。両監督ともデビュー作(ジュリア・デュクルノー『RAW ~少女のめざめ~』、ブランドン・クローネンバーグ『アンチヴァイラル』)を未見なので、どんな映画なのかと期待して見に行きました。

 

 ブランドン・クローネンバーグ監督『ポゼッサー』は、特殊な装置で第三者の脳に入り込んで人格を乗っ取り、遠隔操作で暗殺を行う組織のお話。女工作員(アンドレア・ライズボロー)と、人格を乗っ取られた男(クリストファー・アボット)の攻防が展開します。

 

 父クローネンバーグ作品は銃(『ヴィデオドローム』や『イグジステンズ』の奇怪な銃!)が印象的で、銃撃場面が出てくると上手いという印象があります。『ポゼッサー』はナイフや包丁など刃物が暗殺の凶器として使われ、殺害場面の演出には妙に気合が入っていました。「(銃を持ってるのに)何で使わなかった?」と問われる場面が出てくるので、ここが作り手のこだわりどころなのだと思います。そんなブランドン監督の「親父が銃なら俺は刃物」みたいなこだわりは強く感じられましたが、映画としては小ぢんまりし過ぎてて、父クローネンバーグのようなこちらの想像の上を行くような演出はありませんでした。ラストも、ああこういうお話だったのか(障害となっていた家族を抹殺し、主人公が完璧な暗殺者となる)と腑に落ちたけど、それでいいのかなと。残念ながら、物足りなさが残りました。

 

 遠隔操作装置のフォルム、どんより曇った空や建築物の冷たい雰囲気など確かにクローネンバーグの血筋が感じられ、悪くないと思いました。でも、主人公の上司役が『イグジステンズ』に出ているジェニファー・ジェイソン・リーだったりして、映画の筋立て、美術、キャスティングなどから親父の映画との関連性や影響を云々され比べられてしまうのは果たしてブランドン監督の意図したところなのかなと思います。棘の道じゃないですかそれって。

 

 『TITANE/チタン』の感想はまた明日。

 

 

『ポゼッサー』Possessor

監督・脚本/ブランドン・クローネンバーグ 撮影/カリム・ハッセン 音楽/ジム・ウィリアムズ

出演/アンドレア・ライズボロー、クリストファー・アボット、ロッシフ・サザーランド、タペンス・ミドルトン、ショーン・ビーンジェニファー・ジェイソン・リー

2020年 カナダ・イギリス

 

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