Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

映画感想

 最近見た映画、またはだいぶ前に見たけど感想を書きそびれていた映画について、まとめて感想を書き記しておきます。

 

 

『マリグナント 狂暴な悪夢』(ジェームズ・ワン) 2021年 アメリカ 

 『ソウ』シリーズ、『死霊館』シリーズで知られるヒットメイカー、ジェームス・ワンによるホラー。殺人鬼の犯行現場を目撃する悪夢に悩まされる主人公。前半の展開から、主人公が連続殺人犯の犯行を悪夢で予知するニール・ジョーダンの『イン・ドリームス 殺意の森』みたいなお話かと思ったら、途中から全く別の(ジャンルの)映画に転調します。異形の者の描き方が「怖い(もしくは哀しい)」じゃなくて「凄い」になっちゃってて、もうこれホラーじゃないんじゃないかと思いましたね。ジェームス・ワンの「観客を驚かしてやろう」「ホラーというジャンルを更新してやろう」という熱い意欲は伝わってきました。

 

 

          

キングコング:髑髏島の巨神』(ジョーダン・ヴォート=ロバーツ) 2017年 アメリカ 

 ピーター・ジャクソン版『キングコング』のたっぷりこってりした描写を踏まえ、単なる焼き直しにならないよう様々な工夫が凝らされていて嬉しくなりました。巨大な猿や怪物が跳梁跋扈する「秘境」を描くのに、ベトナム戦争時代という時代設定が上手い。島に生息するトカゲじみた怪獣や巨大蜘蛛の恐怖描写、コングの圧倒的な強さの描写など、怪獣映画ならではの楽しさは充分。『太平洋の地獄』よろしく日米の兵士が秘境に迷い込んで対立・共闘するエピソードが物語の筋を通す。トム・ヒドルストンサミュエル・L・ジャクソンジョン・グッドマン、ジョン・C・ライリーら出演者の濃さもいい塩梅でした。      

 

   

 

ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』(マイケル・ドハティ) 2019年 アメリ

 『キングコング:髑髏島の巨神』のエンドロール後に描かれたシリーズ化への前振りには驚きました。マジでやるのこれ、と思ったら本当に作られてしまった。見た感想は、何でこんなに暗い映像にしなくちゃいけないのかなということでした。ザック・スナイダーのDCコミックものじゃないけれど、深刻ぶった映像に違和感を感じました。「この神話的な雰囲気が格好いいのだ」と言うファンもいるのかな。怪獣映画が作られるのは大歓迎だけど、雰囲気が重すぎてあんまり楽しくないのであった。渡辺謙の死に方がまたなあ。 

 

 

        

ゴジラvsコング』(アダム・ウィンガード) 2021年 アメリカ 

 『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』の深刻ぶった世界観に比べると、2大怪獣のどつき合いに特化したお話はシンプルで良い。でもシナリオがひどくて、行き当たりバッタリの展開が興を削ぐ。2大怪獣のどつきあい2回戦、最後はメカゴジラ相手に共闘、という見せ場の配置ならば、活劇としてもっと盛り上がるように出来たはずなんだがなあと思いました。とにかく全てが雑すぎる。    

 

 

 

 

『ミスター・ベースボール』(フレッド・スケピシ) 1992年 アメリカ 

 落ち目の大リーガー(トム・セレック)が助っ人外人として来日、中日ドラゴンズに入団する。そこで監督(高倉健)やチームメイトと対立を繰り返しながら次第に実力を発揮していく、というお話。これが意外なくらいオーソドックスな娯楽映画に仕上がっていて、予想よりもずっと面白かった。女性の描き方、アメリカ人の日本に対する目線など、1992年の映画にしてまだこんな感じだったのだなとうんざりするところも多いけど。試合シーンの臨場感、スタンドの観客やTV観戦する街の人々などの挿入ショットも実に的確で、ちゃんとしたプロの仕事だなあと思いました。クライマックスの決着の付け方、映画の幕切れもスマート。     

    

 

 

 

『ジョーカー』(トッド・フィリップス) 2019年 アメリカ 

 直接的にはマーティン・スコセッシロバート・デ・ニーロの『タクシードライバー』と『キング・オブ・コメディ』をベースに、その他70年代のニューヨークを舞台にしたさまざまな映画の質感を上手く取り込んでいて、面白い映画に仕上がっていました。クライマックスなど『タクシードライバー』のトラヴィスの妄想が街に漏れ出て、伝染した多数のトラヴィスたちが暴動を起こすというような。ホアキン・フェニックスの芝居を見る映画でもある。続編はレディー・ガガ共演でミュージカルになると報じられてますね。   

 

 

 

ファースト・マン』(デイミアン・チャゼル) 2018年 アメリカ 

 人類初めて月に降り立った男(ファースト・マン)、ニール・アームストロングのお話。地味ながら『ライトスタッフ』風味もあり、意外に面白かった。主人公アームストロングは「仕事に賭ける寡黙な男」と言えば聞こえはいいが、他者(特に奥さん)と全く意思疎通が出来ない男として描かれていて、妙なリアリティがあった。映画の前半で、病床に横たわっている人物のカットに次のカットのガラガラガラ・・・という音が先行して聞こえてくる場面。すぐにこの音は棺を墓穴に下ろすクレーンの音(=病床に横たわった人物は亡くなった)だと分かったのが自分でも嫌だった。  

 

 

 

『オルカ』(マイケル・アンダーソン) 1977年 アメリカ/イタリア 

 大ヒットした『ジョーズ』の後追いで作られた海洋パニック映画。漁師(リチャード・ハリス)と、妻を殺されて復讐に燃えるオルカの闘いを描く。脇役が何の活躍もしないままオルカの餌食になって退場してゆくので活劇としては出来損ないだと思う。主人公の設定もウェット過ぎるなあと。しかし全編ムードは悪くなくて、地元の漁師たちの冷たい視線に送られながら港を出港する場面などなかなか良い。そして何といってもエンニオ・モリコーネ先生の美メロですよ。素晴らしい。 

 

 

 

『ギミー・デンジャー』(ジム・ジャームッシュ) 2016年 アメリカ 

 ジム・ジャームッシュの音楽ドキュメンタリー。『イヤー・オブ・ザ・ホース』(1997年)のニール・ヤングに続いて採り上げられたのはイギー・ポップイギー・ポップ、ストゥージズはちゃんと聴いたことが無いので、自分の中では長髪に半裸のヴィジュアル・イメージしかなく、彼の生い立ちや楽曲についてはほとんど知らないまま見ました。70近い年齢のせいもあるのでしょうか、イギーの語り口は非常に知的で落ち着いていて、イメージしていたある種の過激さ(内田裕也的な存在の過剰さ)はあまり感じられません。しかし生き残った者の凄味みたいなものは充分に感じられました。

 

 

 

『魅せられて』(マックス・オフュルス) 1949年 アメリカ 

 フィルム・ノワールの1本として紹介されている本作。お話的には、このジャンルに含めていいのかなあと疑問に思いつつ見ていましたが、確かにメロドラマというには若干踏み外した感じの映画でした。ラストなんて本当にこれハッピーエンドなのか?という気がしたなあ。出演はジェームズ・メイソン、バーバラ・ベル・ゲデスヒッチコック『めまい』の眼鏡っ子)、そしてノワール常連のロバート・ライアン。   

 

 

 

『太陽は光り輝く』(ジョン・フォード) 1953年 アメリカ 

 蓮實重彦ジョン・フォード論』刊行、シネマヴェーラ渋谷での特集上映で、ジョン・フォードが盛り上がってます。上映にはクラシック・ファンだけでなく若い観客も集まってるようなので素晴らしい。本作はフォードの非西部劇の1本。判事の選挙を巡る喜劇のように始まって、終盤は感動の人間賛歌へと至る。隅々までイイ顔が揃った俳優たちのアンサンブルが素晴らしい。製作年度を考えるとかなりフラットに扱われているとはいえ、現在の目で見ると、黒人キャラクターの描き方には若干の違和感を感じるところもあります。        

 

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わが谷は緑なりき』(ジョン・フォード) 1941年 アメリカ 

 ジョン・フォードをもう1本。炭鉱街の家族を描くドラマで、これは一部の隙も無い完璧なフォルムの映画だと思いました。物語、語り口、撮影、演技、音楽、すべてが完璧に調和している。オールタイム級の大傑作。心底感動しました。街の牧師を演じるのはウォルター・ピジョン、主人公の少年を演じるのは子役時代のロディ・マクドウォール。そう言えばこの2人はラングの『マン・ハント』でも共演していたなと思ったら、同じ1941年の作品だった。   

 

 

 

『マーウェン』(ロバート・ゼメキス) 2018年 アメリカ 

 町山智浩氏が本作の元になったドキュメンタリー映画『マーウェンコル』(2010年)を紹介しているのを読んで気になってました。酒場で暴行を受けて記憶を失い、自宅の庭に作ったフィギュアの街を写真で撮り続ける男、マーク・ホーガンキャンプの実話を映画化。妄想の中に生きる男の再生の物語で、かなり痛々しいドラマです。主人公の周囲が皆いい人なので、何とか見ていられる感じでした。にしてもかなりの怪作であるのは間違いない。フィギュアの街で展開する奇怪な物語、ゼメキスの悪乗りした演出は一見の価値があります。       

 

 

 

『チーチ&チョン スモーキング作戦』 (ルー・アドラー) 1978年 アメリカ 

 スコセッシの『アフター・アワーズ』やロバート・ロドリゲス作品で見たことはありますが、チーチ&チョンとしての主演作は初めて見ました。音楽ネタなので楽しいっちゃあ楽しかったんですが、何というか、相当ユルいなあと。展開も、ギャグも、2人の存在も、ユルすぎる。悪役がステイシー・キーチだったりする辺りが70年代っぽい。     

 

 

 

ブリグズビー・ベア』(デイヴ・マッカリー) 2017年 アメリカ 

 自主映画を作るお話と聞いて気になっていました。各方面に評判も良かったので期待して見始めましたが、色んなところが自分のコードに引っかかりまくりで、ちょっと受け入れがたい映画でした。端的に言うと、映画製作過程はとても楽しそうだけど、彼らが撮った映画が面白いわけが無いと思えてならないんですよ。それでも己のファンタジー道を突き進む『エド・ウッド』と似て異なるというか。クライマックスの上映会は『エド・ウッド』の場面に酷似しているので、作り手も意識してると思いますが。あざとい設定の割に残酷さが足りないと思います。

      

 

 

トゥインクル・トゥインクル・キラー・カーン』(ウィリアム・ピーター・ブラッティ) 1980年 アメリカ 

 『エクソシスト』原作者ウィリアム・ピーター・ブラッティの監督作。ベトナム帰還兵を集めた精神病棟(何故か古城)を舞台に、医師と患者たちの間で奇妙な問答が延々と続く。ステイシー・キーチスコット・ウィルソンジェイソン・ミラーエド・フランダース、ネヴィル・ブランド、ジョージ・ディセンゾ、モーゼズ・ガン、ロバート・ロジア、リチャード・リンチら、70年代傍役オールスターのごとき出演者の顔ぶれが濃い。これって原作の邦訳が出ていたのか(創元推理文庫『センター18』)。探してみよう。    

 

 

 

 明日から5日間の夏休み。今回もお持ち帰りの仕事と家族サービスで終わっちゃいそうな気もしますが、1本でも多く映画見たい。映画館に通いたい。ロミー・シュナイダー映画祭、シネマヴェーラ渋谷ジョン・フォード特集、池袋新文芸座岡本喜八特集、『こちらあみ子』『WANDA/ワンダ』『バトニー・スウォーブ』他・・・見たい映画は山ほどあるのだ。