Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『火を熾す 柴田元幸翻訳叢書 ジャック・ロンドン』

 

 夏休み2日目。娘の宿題(読書感想文)見たりしてる内に、出かけるタイミングを逸してしまった。体調が今一つだったこともあり、引きこもって読書の一日でした。読んだのは『火を熾す 柴田元幸翻訳叢書 ジャック・ロンドン』。

 

 マーク・トウェインチェーホフオスカー・ワイルドトーマス・マンモーリス・ルブランカレル・チャペックその他文豪の短編を集めた「世界ショートセレクション」という子供向けのシリーズがあります。表紙は子供に人気のヨシタケシンスケのとぼけたイラストで、文学全集という古臭さや重さを感じさせないようにしています。娘が図書館からこのシリーズのジャック・ロンドン編を借りていたので、何気に目を通してみました。ジャック・ロンドンって『白い牙』『野生の呼び声』とか書いた人だよねくらいの知識しかなかったので、あまりに面白いんで驚きました。これは大人向けの翻訳版をちゃんと読んでみようと思い、まずは『火を熾す 柴田元幸翻訳叢書 ジャック・ロンドン』を手に取ってみました。

 

 ジャック・ロンドン(1876年~1916年)は、40歳で他界するまで200以上の短編を残したという。あとがきで「作風の多様性も伝わるように」セレクトしたと書かれていた通り、全く違ったアプローチの作品が並んでいて、しかもどれも物凄く面白かった。収録作品は、極限状態のサバイバルを描く3編『火を熾す』『生の掟』『生への執着』、マウイに伝わる民話をモチーフにした『水の子』、ボクシングを扱った2編『メキシコ人』『一枚のステーキ』、斥候兵の運命を描く『戦争』、SF(と言ってもいいと思う)2編『影と閃光』『世界が若かったとき』・・・。

 

 極寒の地でのサバイバルを描く表題作『火を熾す』の迫真力と、ラストで主人公に同行していた犬に主観が移ることで若干の救いがもたらされる上手さ。『影と閃光』『世界が若かったとき』の奇妙な味わいも忘れ難い。一番好きだったのは、マカロニウエスタンよろしく革命に揺れるメキシコを舞台に、革命軍の手助けをする謎の若者を描く一風変わったボクシング小説『メキシコ人』でした。ボクシング場面も迫真のリアリティがあります。いや凄いわジャック・ロンドン。今更ながらこんなに面白い作家だとは知らなかったので、続けてチェックしようと思います。