Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『名建築で昼食を』(TVM) 

 

 先日、娘と上野の国際こども図書館に行きました。賑やかな上野公園のすぐ近くとは思えぬ静かな場所にあり、「こども図書館」と聴いてイメージするような可愛げな施設ではなくて、歴史を感じさせる堂々たる風格の建物でした。館内に『名建築で昼食を』という番組のチラシが置いてありました。ここでロケした番組らしい。深夜番組だったようで全く知りませんでした。国際子ども図書館がどんな風に撮られてるんだろうと興味を持ったので、アマプラでチェックしてみました。2020年に放映された『名建築で昼食を』30分×全10回と、2021年のスペシャル版『横浜編』。監督吉見拓真、脚本横幕智裕、音楽ベンジャミン・べトゥサック。出演は池田エライザ田口トモロヲ

 

 

 カフェを開くことを夢見る主人公・藤(池田エライザ)と、建築模型士の植草(田口トモロヲ)が、東京の名建築を巡るお話。番組のタイトルやチラシのスチールのイメージから、何となく池田エライザ田口トモロヲの2人が名建築を巡るドキュメンタリー番組(ブラタモリ的な?)を想像していたら、ちゃんとドラマ仕立てでした。個人的に深夜ドラマにはよくないイメージ(下手な自主映画みたいな淡々系演出か、うすら寒いギャグを連発する独りよがりなもの)がありますが、その辺も実に真っ当な演出で好感度が高かった。主人公の恋愛模様はちょっと首をかしげるところがあるけれど(ぬか床を預けていなくなる若い男って・・・)、それ以外は適度なリアリティと押しつけがましくないさらりとした描写がいい塩梅です。ドラマパートと名建築を巡るドキュメンタリーパートが非常に上手く融合した面白い番組だと思いました。

 

 ドキュメンタリーパートで名建築を堪能する田口トモロヲの語り口、池田エライザの素直なリアクションも楽しい。登場する「名建築」は、第1話アンスティチュ・フランセ東京、第2話自由学園明日館、第3話ビヤホールライオン銀座七丁目店、第4話東京都庭園美術館、第5話 目黒区総合庁舎、第6話国際文化会館、第7話山の上ホテル、第8話旧白洲邸 武相荘、第9話国際子ども図書館、第10話江戸東京たてもの園。もともと自分も街をぶらつくのが何よりの楽しみなので、お散歩気分でリラックスして楽しめる良い番組でした。トマソンに対する言及もあり、作り手は勘所を押さえてるなと思います。

 

 第7話では山の上ホテルが登場。ここ思い出の場所なので感慨深いものがありました。しばらく行ってないけど改装したんだな。国際子ども図書館は第9話に登場。印象的だったレトロな階段がきちんと捉えられていてさすが。また行ってみたくなりました。

 

 『横浜編』は1時間番組で、シリーズ「東京編」のその後を描く1時間のスペシャル版。加藤登紀子がゲスト出演。植草の背景が少し描かれてちょっとシリアスな場面もあり。植草の建築模型士としての仕事ぶり(田口トモロヲのもっともらしい手つき)も描かれて面白い。登場する名建築は、神奈川県立図書館、神奈川県立音楽堂横浜市開港記念会館、ホテルニューグランド。ドラマ部分はノーマスクでコロナ禍であることを示す演出はありません。しかしホテルニューグランドの場面では、コロナ禍であることが語られて、虚実の間というか、半分ドラマ半分ドキュメンタリーというこの番組の興味深い立ち位置が感じられました。先日新シリーズ(大阪編)が始まったので、今回はリアルタイムでチェックしてみようと思います。

 

 田口トモロヲ演じる植草は建築模型士。SNSに「乙女建築」(ノスタルジックで可愛らしい建築)訪問のページをアップしている。千明という名前から主人公が女性と勘違いして会ってみたら気弱そうなおじさんだった・・・というのが第1話。田口トモロヲはどうもこういった草食系の趣味人みたいなイメージが定着してきたような気がしますが、元パンクス(ばちがぶり)、元鉄男だから!昔メトロファルスのライブで、酔って乱入する凶暴な姿を見たのを思い出します。