Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『赤死病』(ジャック・ロンドン) 

 

 白水uブックスジャック・ロンドン『赤死病』読了。短編『赤死病』(1910年)、『比類なき侵略』(1907年)、エッセイ『人間の漂流』(1910年)の三篇が収録されています。        

 

 表題作『赤死病』は、感染症の大流行で人類が滅亡し、文明が崩壊した未来(2073年)が舞台。生き残った老人が孫たちに人類滅亡の過程と、その後のサバイバルについて語る。2013年に発生した「赤死病」は感染率が極めて高く、顔や体中が赤く変色してわずか15分で死に至る。当時27歳で大学教授をしていた老人は、仲間たちと都会を脱出するが、やがて彼を残して皆死に絶えてしまった。疫病が終息し、たった1人で旅を続けた老人は、やがて他の生き残りと合流するのだが・・・。破滅SFとして出色の出来で、文明が崩壊した未来でのサバイバルを描いた後年の作品『子供の消えた惑星」(ブライアン・オールディス、1964年)、『ザ・ロード』(コーマック・マッカーシー、2006年)等と比べて何の遜色もありません。赤死病で街がパニックに陥る様子や文明が崩壊した世界でのサバイバルなど、執筆された年代を忘れてしまうほどの迫真力があります。死屍累々の世界はコロナ禍を予見した・・・とまでは言わないが、ジャック・ロンドンの時代から変わらず常に危険は隣りあわせだったという事だろう。           

 

 併録された『比類なき侵略』は、人口が急増した中国が世界中へ進出、西洋諸国が中国の絶滅を図るため細菌兵器を使用するというこれまた恐ろしい話。核の時代以前に書かれた小説なので、核戦争ではなく細菌戦が描かれています。日本の立ち位置や振る舞いが妙にリアルに描かれているが、ジャック・ロンドン日露戦争時には新聞特派員として日本を訪れたことがあるのだという。『人間の漂流』は『赤死病』『比類なき侵略』を補足するようなエッセイ。         

 

 三篇とも『火を熾す』に収録された作品とまた違ったジャンルでこの面白さ。ジャック・ロンドン探求はしばらく続けてみようと思います。