Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『山田宏一映画インタビュー集 映画はこうしてつくられる』 

 

 『山田宏一映画インタビュー集 映画はこうしてつくられる』(2019年)読了。名インタビュアーとしても知られる映画評論家、ヌーヴェルヴァーグといえばこの人、山田宏一氏のインタビュー仕事ベスト盤です。ゴダール追悼の番外編・・・という訳ではないけれど、本書にもゴダールは印象深く要所要所に登場します。

 

 掲載されたインタビューは、クロード・ルルーシュマルセル・カルネアラン・レネ、ジャン゠リュック・ゴダール、バルべ・シュレデール、ジャン゠ポール・ベルモンド、アレクサンドル・トロ―ネル、ピエール・ブロンベルジェルイ・マルクロード・ミレールサミュエル・フラー、イヴ・ロベール、サム・レヴァン、ルネ・リシティグ、シャルル・アズナヴール、マドレーヌ・モルゲンステルヌ、キム・ノヴァクアンナ・カリーナラウル・クタール、という錚々たる顔ぶれ。『わんぱく戦争』のイヴ・ロベールが入ってるのが嬉しいじゃないですか。ちなみにマドレーヌ・モルゲンステルヌ(映画プロデューサー)はトリュフォーの元奥さんだ。映画監督や俳優だけでなく、プロデューサー、撮影、美術、スチール、編集、フィルム修復、といったスタッフのインタビューも掲載されていて、表題の通り映画の成立過程が様々な視点から語られています。

 

 最初のインタビューは1965年冬のパリ、山田氏が『女と銃』(1964年・日本未公開)で注目したまだ29歳のクロード・ルルーシュ『男と女』の大ヒットで有名になる前)。山田氏が「我が映画狂いを決定的にした」という『天井桟敷の人々』のマルセル・カルネ監督、アレクサンドル・トロ―ネル(美術)らが語る製作秘話。ナチスドイツ占領下のフランスで、ユダヤ系のスタッフたちは山中の隠れ家で仕事を行っていたという。若き日のジャック・タチも出演者候補だったというから驚き。マルセル・カルネジャン・ルノワールら戦前戦後のフランス映画界の様子が興味深い。また山田氏と言えばヌーヴェルヴァーグです。ルルーシュゴダールルイ・マルアンナ・カリーナ、ベルモンド、バルベ・シュレデール(バーベット・シュローダー)、ラウール・クタールらが生き生きと語る当時のエピソードは、映画製作の楽しさに溢れていてワクワクします。

 

 名インタビュアーぶりを発揮する山田氏ですが、本書には苦戦した2本のインタビューも掲載されています。1人はサミュエル・フラー。「場面の引用」とか「影響受けた作品」とかいかにも映画好きらしい問いに対し、ことごとくそんなの馬鹿げてる!と怒りまくるフラー。もう1人は、言わずと知れたゴダールルルーシュルイ・マルアラン・レネらの丁寧な受け答えに比べて、気難しくインタビュアーを値踏みするような態度は、山田氏をして「恐怖のゴダール」と言わしめたほど。「いつも怯えの方が先だって怖気づいてしまいこれ以上インタビューする勇気が無かった」とまで書いているのでよほどキツかったんだろうなあ。60年代ゴダール作品のカメラマン、ラウール・クタールのインタビューと併せて読むと、身内のスタッフでもかなりキツかったようだなと思いましたね。