Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『メルビンとハワード』『愛されちゃってマフィア』(ジョナサン・デミ) 

 

 下高井戸シネマにて、好企画「70-80年代(ほぼ)アメリカ映画傑作選」スタート。18日は大好きなジョナサン・デミの2作が上映されるというので行ってきました。貴重な上映という事で劇場は満席。ジョナサン・デミはずっと御贔屓にしている監督なのでとても嬉しかった。

 

 まずは『メルビンとハワード』(1980年)。キャストが地味な為か、これまで日本では劇場未公開の1作。以前見た記憶ではジェイソン・ロバーズ扮する謎の老人(実は大富豪ハワード・ヒューズ)の印象が強かったけど、見直してみたら老人は最初と最後しか出てこなくて、メインのお話はポール・ルマットとメアリー・スティンバージェンの夫婦がくっついたり離れたりを繰り返すだけであった。記憶していたよりも更にシンプルで、そしてやっぱり良い映画だった。

 メルビンとハワード老人が夜のドライブをする冒頭が素晴らしい。窓を開けて雨上がりの砂漠の匂いを嗅ぐ。雑談を交わしたり歌を歌ったりしながら、次第に夜が明けていく。映画の最期にはこの場面が繰り返される。ここにちょっとしたひねりが加えられていて感動した。鑑賞後は、優れたアメリカ文学を読み終えたような満足感を覚えた。

 音楽は『さすらいのカウボーイ』のブルース・ラングホーン。クレイジーホース、CCR等選曲の妙はロック好きのジョナサン・デミらしい。ストーンズの『サティスファクション』でタップダンス躍らせるなんてハズし具合が面白い。

 

 『愛されちゃってマフィア』(1988年)。こちらも日本劇場未公開、ビデオスルーだった。『サムシング・ワイルド』同様に、キャラクターの変化に重きを置いたストーリー展開と、やかましくない程度にポップな映像。デミの美徳が遺憾なく発揮された傑作だと思います。光輝くミシェル・ファイファーマシュー・モディーンのニヤニヤ笑いのとぼけっぷり。ひょろりとしたフォルムとあの妙な動きは、陽のモディーン、陰のクリスピン・グローヴァーという感じか。本編でカットされた場面に、ニューオーダーやフィーリーズ、ピクシーズ等劇中の音楽がミックスされたエンドロールが楽しい。

 

 上映後は、渡部幻さん、大森さわこさんのトークショーもあって嬉しかった。デミ話はもっと聞きたかったな。

 

 トークショーでも話題に出ていた通り、フィリップ・トーマス・アンダーソンはデミの影響を受けている。PTAがアルトマンやデミから継承しているのは、映像のスタイルではなくて、血の通ったキャラクターが牽引する映画の在り方なんだと思う。2本を再見してその確信を深めた。

 

 そういえば、デミが撮ったTV用の短編『アクターズ・ラブ』(原作カート・ヴォネガット、主演クリストファー・ウォーケンスーザン・サランドン)も、登場人物の変化で見せる良い映画だったなあ、見直したいなあ。『メルビンとハワード』が実話ベースの映画だとは知らなかったなあ。下高井戸で下車したの何年ぶりだろう。もしかして(今は無き)下高井戸京王で『危険な年』『天国の日々』二本立て見て以来?ってことは30数年ぶりか。『タッカー』ではディーン・ストックウェルがハワード・ヒューズを演じてたっけな。チャールズ・ネピアジョナサン・デミラス・メイヤーの常連という不思議な人だな。あの斜視の俳優は『羊たちの沈黙』出てたな、ポン・ジュノの『グエムル』にも出てた気がするなあ。今年映画館でsatisfactionを聴いたのは2回目だな。等々・・・。帰りの電車の中では、心地良い興奮でアタマがざわついてあれこれ思考が止まらなかった。

 

 この企画上映は約2週間続く。何とかして再訪したいなと思う。