Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『シン・仮面ライダー』(庵野秀明)

 

 庵野秀明監督『シン・仮面ライダー』鑑賞。タランティーノの『デス・プルーフ』が場末の映画館での鑑賞体験を再現しようという試みだったように、『シン・仮面ライダー』は監督が考える仮面ライダー=初期ライダーの荒々しい魅力を再現しようという試みか。仮面ライダーや怪人のデザイン、人気のないロケーション、オリジナル音楽の使用など正に昭和のライダーを強く意識したものだった。じゃあそれは面白いのか。

 

 昨年の『シン・ウルトラマン』の時も同じことを感じたが、映画は良くも悪くも徹頭徹尾「仮面ライダー」としか言いようのないものだった。オリジナルの再現もアップデートもあくまで「仮面ライダー」枠内、「仮面ライダー」の設定で何か別のことを語ろうと言う企画ではない。作り手の意図はそこにありそれはきちんと形になっていて、だから駄目という話ではないけれど、あまりに「仮面ライダー」でしかなかったところに戸惑いを覚えたというのが正直な感想。

 

 完全に昭和のライダーに徹しているかと言えばそうでもなくて、些末なことだけど、CGでちょこちょこ動き回る肉体感の無いアクション、肉親ネタで妙にスケールの小さい作劇、全然怖くない怪人たちの演出が雑音となって、上手いことノレなかったというのもある。『バビロン』を見た時と同様に「それは違うんじゃないか?」とか「その撮り方はどうよ」とか頭の中で突っ込みが渦巻いて退屈する暇が無かった。そういう意味で充分入場料の元は取れたが。

 

 「仮面ライダー」は現在も切れ間なく新作が作られ続ける人気シリーズなので、ニーズはあるだろう。本作も巨大なファンアートみたいなものなので、そこに「何故今仮面ライダーを?」と現代的な意義を問うても意味はないだろう。それにしてももうちょっと何かあっても良かったんではないかとは思う。というか、俺は「仮面ライダー」じゃなくて映画を見たかったんだ。