Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『フレンチ・カンカン』『素晴らしき放浪者』(ジャン・ルノワール)

 

 

 早稲田松竹にて、ジャン・ルノワール二本立て。ルノワールは名作と呼ばれる『ゲームの規則』がどこか好きになれず、以降は敬遠してほとんど見ていなかった。これを機にと思い馳せ参じた。

 

 『フレンチ・カンカン』(1954年)は興行師と踊り子たち、界隈の人々の恋模様を描く色鮮やかなミュージカル・コメディ。クライマックスはパリのキャバレー「ムーラン・ルージュ」のオープン。歌と踊りの見せ場が連続し(エディット・ピアフも出演)、怒涛のような勢いでハッピーエンドへと突き進む。

 

 主演はジャン・ギャバンギャバンといえば「むっつりした初老のギャング」というイメージだけど、本作では喜怒哀楽の表情も豊かでチャーミング。モテ男ぶりを発揮して若い娘とラブシーンを演じてみせる。でも終盤で本性を明らかにして、やっぱり堅気じゃないんだなこの人はと妙に納得した。

 

 続いて『素晴らしき放浪者』(1932年)。邦題やポスターの印象からもっと牧歌的なものを想像していたら、かなり意地の悪い辛辣な映画だった。

 

 セーヌ河に身投げしたところを助けられた放浪者ブーデュ(ミシェル・シモン)が、本屋を営むブルジョワ家庭に居候を始める。放浪者は、見た目は違うが『テオレマ』のテレンス・スタンプのごとき誘惑の才能と、野に放たれたハーポ・マルクスのような凶暴性を発揮して、家庭を破壊し尽くす。そしてまた何処かへと去ってゆく。素晴らしき放浪者...なのか?本当に。終盤、結婚式の後に川をボートでゆっくりと進む場面。映像が不穏過ぎて、ボート転覆のギャグがギャグに見えなかったなあ。