Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『汝のウサギを知れ』(ブライアン・デ・パルマ)

 

 ブライアン・デ・パルマ監督『汝のウサギを知れ』(1972年)鑑賞。60年代後半からインディペンデントで活躍していたデ・パルマの商業映画デビュー作、になるはずだったが途中で監督降板の憂き目に遭ったという。

 

 仕事に嫌気がさした大企業のアナリストが、マジシャンに転身して巡業の旅に出るというコメディ。せっかく自由の身になったのに、いつの間にか企業に取り込まれていたという皮肉な展開は、ニューシネマ以降の目線を感じさせる。汝のウサギを知れ Get to Know Your Rabbit という奇妙なタイトルは、「自分がマジックで使うウサギをよく知っておけ」という劇中の台詞。身の丈を知れ、みたいなニュアンスかな。

 

 デ・パルマは画面分割、俯瞰からの移動撮影などお得意の撮影技法を折り込みながら軽快な演出を見せる。随所に顔を出すデ・パルマは楽しいが、主人公の欲望と演出が乖離しているようで違和感がある。やはりデ・パルマの演出スタイルは、カメラが登場人物と一体化して暗い欲望を滾らせるサスペンス系の作品の方がハマるのだなと思う。初期作品『HI, MOM!』もコメディだったけど、デ・ニーロ演じる主人公が覗き、映画撮影に執着することでデ・パルマのフェティッシュなタッチが上手くハマっていた。本作は上手くマッチしていない印象で、後年の『虚栄のかがり火』の違和感を思い出した。ドラマ的にも中途半端な印象で物足りなさを覚えた。この辺は監督を途中降板させられたことが関係しているのかな。

 

 主演はトム・スマザーズ。ほとんど予備知識なく見たもんだから、オーソン・ウェルズが出てきてびっくりした。マジシャンのお師匠さん役で、もう胡散臭さ満点。主人公が巡業中に知り合う女性はキャサリン・ロス。『卒業』『明日に向かって撃て!』でブレイクした後のはずなので、本作はゲスト出演みたいなものか。