Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『EO イーオー』(イエジー・スコリモフスキ)

 

 イエジー・スコリモフスキ監督『EO イーオー』鑑賞。ヒューマントラストシネマ有楽町にて。

 

 イーオーと名付けられたロバの放浪の旅を描く異色作。サーカス団の女性の記憶を頼りに、イーオーは何度も捕らえられては脱走を繰り返し旅を続ける。監督は『早春』『ザ・シャウト/さまよえる幻響』のスコリモフスキ。

 

 ロバを取り巻く世界は、本作の原型となったロベール・ブレッソンバルタザールどこへ行く』よりさらに直接的な暴力と美に満ちている。殺処分する電気ショックの残酷な響き。ロバを運ぶ車窓から見える草原の馬たちの躍動感。脱走したロバを照らす真紅の朝焼け。時折画面の端をよぎるハレーションが印象的。

 

 動物映画は、結局動物を取り巻く人間のドラマであることが多い。例えば邦画『ハチ公物語』、あれはハチ公そのものではなく、飼い主である仲代とその家族のドラマがメインであった。動物目線で動物そのものの運命を描いた映画はあまりないように思う。本作はかなりの度合いで動物映画に徹する事が出来ている。旅先で出会う人間たちのドラマは、ロバを取り巻く世界の暴力性を強調する為のもののようだ。

 

 自分の好みから言うと音楽が饒舌過ぎるなと思うけど、台詞の説明に頼らない純粋映画の試みとしてかなり面白かった。そう言えばスコリモフスキは『エッセンシャル・キリング』(2010年)でもほとんど台詞の無いアクション映画に挑んでいた。