Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『雨にぬれた舗道』(ロバート・アルトマン)

 

 角川シネマ有楽町にて「ロバート・アルトマン傑作選」スタート。上映作品は『ロング・グッドバイ』『イメージズ』『雨にぬれた舗道』の3本。本特集の目玉は女性を主人公とした『イメージズ』『雨にぬれた舗道』の2本。『イメージズ』が劇場初公開、『雨にぬれた舗道』は未ソフト化というアルトマンの中でもマイナーな作品。早速、未見だった『雨にぬれた舗道』(1969年)に行ってきました。

 

 孤独な中年女性(サンディ・デニス)が、自宅から見下ろす公園のベンチでずぶ濡れになっていた見知らぬ青年を部屋に招き入れる。女性は無口な青年の世話を焼き、次第に妄執の世界に入り込んでいく‥‥。歳の差カップルの奇妙なメロドラマのように見せかけて、これがまさかのニューロティック・スリラーであった。

 

 本作はアルトマンのメジャーデビュー作『宇宙大征服』に続く第2作。この次が大ヒット作『M★A★S★H』だ。この初期作品でアルトマンはすでに限定空間(女性のマンション)におけるサスペンス演出、後の『イメージズ』『三人の女』『わが心のジミー・ディーン』等に続く女性の心理的抑圧や強迫観念のテーマに挑んでいる。

 

 アルトマンは主人公を徹底的に突き放して描いている。映画が本性を現した後半は展開が読めず、要所のショック演出も意外と堂に入っていてかなり怖い。窓釘付け、ベッドの人形、最後の団子状態で揉み合う絵面の禍々しさには震えた。

 

 主演のサンデイ・デニスは微妙な表情の違いで童女にも疲れた中年女にも見える不思議なルックスで、後のアルトマン作品『わが心のジミー・ディーン』(1982年)でも重要な役柄を演じている。青年を演じるマイケル・バーンズの捨てられた子犬感も説得力充分。

 

 ちなみに、本作はとある映画サイトで「年下の青年を愛した女性の、母性愛的心情と、甘くせつない追憶を描いた叙情編。」と紹介されていて笑った。全くそんなんじゃないから!その紹介信じて見た人は腰を抜かしただろう。