Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『イメージズ』(ロバート・アルトマン)

 

 角川シネマ有楽町にて開催中の「ロバート・アルトマン傑作選」3本目、『イメージズ』(1972年)鑑賞。随分前にDVDで見て以来久々の再見。劇場鑑賞は初。しかしハル・アシュビーにアルトマンって今何年よ?と思うけど、好きだからいいよね。ありがたいことです。

 

 主人公キャシー(スザンナ・ヨーク)は夫ヒュー(ルネ・オーベルジョノワ)と田舎のコテージで休日を過ごしていた。そこに死んだはずの元愛人ルネ(マルセル・ボズフィ)が現われてキャシーを脅かす。さらにもう一人の元愛人マルセル(ヒュー・ミレー)が娘スザンヌ(キャスリン・ハリスン)を連れて訪ねて来る。マルセルはヒューの隙を盗んではキャシーを執拗に誘惑してくる。混乱をきたしたキャシーは精神的に追い詰められていく・・・。

 

 アルトマンはインタビューで「これは幽霊の話ではなくて、女性の心理を描いた映画だ」と語っていた。情緒不安定な女性が幽霊(幻覚)に悩まされて狂気に落ち込んでいくというお話を、アルトマンはホラーじゃなくて精神分析みたいな映画にしたかったと言う訳だ。しかし監督本人はそのつもりだろうけど、改めて見直してもこれは思いっきりホラーだった。超ロングショットでこちらを見下ろす自分(ドッペルゲンガー)が映る場面など心底恐ろしい。夫かと思って話していた相手が愛人と入れ変わったり、愛人の幽霊を射殺したら○○だった、とかアルトマンのホラー演出はなかなかの切れ味。幽霊が流した血が床やソファにしばらく残ってる描写が怖い。

 

 撮影は名手ヴィルモス・ジグモンドで、揺らぐようなカメラワークと急激なズーミングでヒロインの情緒不安定ぶりと異常心理を強調。さらにジョン・ウィリアムズ(『スーパーマン』や『レイダース』のあのジョン・ウィリアムズだけど全くイメージが違う)とツトム・ヤマシタによるおっかない音楽が絶妙のタイミングで鳴り響いて嫌な雰囲気を盛り上げる。

 

 幽霊になって出てくる昔の愛人を演じてるのはマルセル・ボズフィ。『フレンチコネクション』でポパイとデッドヒートを繰り広げる殺し屋を演じた人。ポスターでポパイに後ろから撃たれてのけぞってる人、といえば思い出す人も多かろう。あのおっさんが幽霊として部屋の中をうろうろしてるだけでもかなり嫌な感じだった。

 

 「アルトマン傑作選」3本見終えて、60年代後半~70年代のアルトマン作品の素晴らしさを改めて堪能できた。もちろん80年代以降の作品も独特で大好きだけれど、やはりこの時代の作品の個性は突出したものがあるなあと思う。どれも自分にとって心の琴線に触れる大事な映画だ。霞んだ画調、ゆったりとした移動撮影とズーミング、妙に生々しい俳優たちの息遣い。時に恐ろしく退屈でもあるのだが、あの充実しきった憂欝さとでも呼ぶべきアルトマン・タッチを時折味わいたくなる。