BS松竹東急で6夜連続ブルース・リー主演作放映の好企画。これを機に全作見直してみた。
『ドラゴン危機一発』(ロー・ウェイ) 1971年
ブルース・リー初主演作。まだ素朴な感じで、後の超然とした雰囲気は無い。浮かれ騒いだり、泥酔する場面があったりするのが珍しかった。しかし一旦アクションシーンになるとキレの良い動きで周囲を圧倒。足技をキチンと捉えるカメラワークがいい。
舞台はタイの田舎町。製氷工場を隠れ蓑に麻薬密売をする悪党一味と、中国から出稼ぎにきたリー青年の闘いを描く。画質やスケール感、キャストの垢抜けない風貌、ノラ・ミャオがかき氷屋の娘役でゲスト出演する感じなど、どことなく日活アクション風味がある。クライマックスは死屍累々で、さすがに日活アクションはあそこまで血生臭くないけど。
『ドラゴン怒りの鉄拳』(ロー・ウェイ) 1972年
個人的にブルース・リーといえば、本作の直情的で殺気立ったイメージだ。前半の道場破りは技の多彩さ、ミュージカルのごとき振り付けやカメラワークの面白さでカンフー映画の醍醐味を満喫できる。
今回久しぶりに再見して改めて気がついたのは、タイトルバックの映像処理やテーマ曲から感じるマカロニウエスタンの影響。もうひとつは、変装したリーが見せる妙にねちっこい演技が松田優作みたいだなと。逆か。優作にリー成分があったということか。後はもうノラ・ミャオの超絶的な可愛さですよ。リーとの伝説的なラブシーンはとてもいじらしい。
本作は20世紀初頭の上海を舞台にした抗日アクション。悪役は横暴な日本人武道家たちで、芸者ストリップをはじめヘンなニッポン描写も多数。同胞を裏切る人物が一番嫌な奴として描かれているのはブラックスプロイテーションと同じだ。
『ドラゴンへの道』(ブルース・リー) 1972年
ブルース・リーが監督も兼ねた意欲作。ローマを舞台に、マフィアに立ち退きを要求されているレストランを救うためにブルース・リーが立ち上がる。本作では激烈なアクションに加え、ユーモラスな演技を披露しているのが意外だった。下ネタ(すぐトイレに行きたがる)多めなのが微笑ましい。
共演は前作に続いてノラ・ミャオ。素朴な『ドラゴン怒りの鉄拳』とはがらりと変わって気の強そうな大人っぽい表情が素敵。
クライマックスはマフィアの雇った用心棒チャック・ノリスとの決闘。ノリスが登場すると一瞬モリコーネ的ギター(的じゃなくてまんま流用か)が鳴り響く。後の『エクスペンダブルズ2』でもノリスはモリコーネのメロディと共に現れたなと感慨深い。クライマックスの対決前に両者は入念なウォーミングアップを行う。それを子猫が見ている一工夫が楽しい。戦いぶりもスポーツマンシップに則った非常にフェアなもので清々しかった。
『燃えよドラゴン』(ロバート・クローズ) 1973年
70年代カンフーアクションの金字塔であり、ブルース・リーの魅力を世界中に知らしめた代表作。ラロ・シフリンの音楽と荒々しいロケーション、多彩な登場人物たちの闘いが見事にシンクロして、唯一無比の世界を作り上げている。意外にユーモラスな場面も多くて、シャープな格闘場面との緩急もお見事。丸っこいワーナーのロゴマークも嬉しかった。
本作は子供の頃から何度も繰り返し見ていて展開はわかりきっているのに、毎回飽きずに最後まで見てしまうこの不思議。やはりブルース・リーの身のこなしが特別過ぎて、見慣れるという事がないからだろうと思う。鮮やかな回し蹴りやヌンチャクさばきには毎回初めて見たように驚いてしまう。
『ブルース・リー/死亡遊戯』(ロバート・クローズ) 1978年
リーが急逝したため、ドラマ部分に代役を立てて完成された曰く付きの作品。代役と本人映像の繋ぎが呆れるほど雑で、「リーはまだ生きているという夢をみんなで共有しよう!」みたいな香港映画的な大らかさといかがわしさだ。今ならCG駆使してもっと上手く繋いで見せるんだろうけど、それはそれでイヤかも。
本作の「各階で待ちうける敵を倒しながら塔を登っていく」というパターンは後年のアクション映画や格闘漫画などに多大な影響を与えている。リーが多彩な技を繰り出すクライマックスは今見直しても絶大なインパクト。映画としてはかなりアレだけど、クライマックスだけで充分な満足感が味わえる。
音楽は意外なところでジョン・バリー。007を意識したのかな。
『ブルース・リー/死亡の塔』(ウン・シー・ユアン) 1980年
リーの死後、アーカイブ映像を使用して製作された(でっち上げられたという表現が相応しい)作品。過去出演作品や未使用シーン、果ては葬儀風景まで貴重な映像が見られるのは良いとして、映画としては珍品と呼ぶ他ない。おかしなニッポン描写、春画で悶々とする主人公、自作の指南書の妙に可愛い挿絵、ヘリから落下しするリー(という設定の誰か)とか、珍妙なシーンが連続。
冷静に見ると主演タン・ロンもアクロバティックなアクションで充分凄いと思うんだけど、ショッカーの秘密基地めいたセットと悪役のしょぼさで馬鹿馬鹿しさが先に立ってしまった。代役と本人映像の繋ぎは『死亡遊戯』を超えるアバウトさで、あれ?今何でリーのアップが挿入されたんだろう(あっそうか切り返しショットのつもりか)と何度も思ってしまった。「本人じゃないの皆知ってるんだから想像で補完してくれ!」と言わんばかりの雑さには呆れる。やはり珍品枠か。
久々に見たブルース・リー、やはり絶大なインパクトだった。軽やかな身のこなし、怪鳥音、何とも言えぬキメの表情、ヌンチャク等鮮やかな武器の扱い、意外なユーモアもあり一瞬たりとも目が離せなかった。