ピエール・フォルデス監督『めくらやなぎと眠る女』鑑賞。角川シネマ有楽町にて。
原作村上春樹。以前から村上作品を映画化するならアニメーションだろうと思っていた。日常のリアリズムとは違ったところで組み立てられた世界観や翻訳口調の台詞回し、ファンタジックな要素など、実写だと気恥ずかしいものになりそうだけど、アニメーションなら上手く表現できるのではないかと。なので、どんな仕上がりかと興味津々で劇場に足を運んだ。
本作は村上春樹の6篇の短編(『かえるくん、東京を救う』『バースデイ・ガール』『かいつぶり』『ねじまき鳥と火曜日の女たち』『UFOが釧路に降りる』『めくらやなぎと、眠る女』)を組み合わせて、東日本大震災の余波で変化を余儀なくされた登場人物たちを描いている。と言っても人生が激変した直接の被災者ではなくて、遠くにいてその余波で何かを思い出したり、生活に微妙な変化が訪れたりしたような人々。その距離感は、神戸の震災をキーとした連作集『神の子供たちはみな踊る』と同じであり、作り手(フランス人)のものでもあるだろう。ちなみに、同様の手法でロバート・アルトマンが短編小説をコラージュして長編映画に仕立てた『ショート・カッツ』(原作は、村上春樹が翻訳者として日本に紹介したレイモンド・カーヴァー)。あれは結末部分が地震だったなと思い出す。
日本版ポスターでメインヴィジュアルになっている「かえるくん」など、要所にファンタジックな味付けはあるものの、基本的には会話劇、登場人物たちのすれ違う想いのスケッチ。そこをアニメーションならではの柔らかい動きと描線で非常に繊細に掬い上げていて、とても良かった。キョウコの願い、同僚から預かった小箱の中身、かえるくん勝利の瞬間等々、決定的な場面は描かれず、謎は謎のままで予感だけが残る。そんな作劇も好きだった。音楽がとても良いなと思ったら、監督はミュージシャンなんだという。
惜しむらくは、もっと怖さがあっても良かったと思う。村上春樹の世界は意外に業が深く、描く闇はもっと濃いと思っているので。
劇中、少年が急にジョン・フォード『アパッチ砦』の話をするのでギョッとした。原作通りとはいえ、あれは今風な何かにアレンジしても良かったんじゃないかとは思う。