アニエス・ヴァルダは、デビュー作『ラ・ポワント・クールト』(1955年)から遺作『顔たち、ところどころ』(2017年)まで、長きに渡り常に現役で活躍したフランスの名監督。ヌーヴェルヴァーグ初の女性監督であり、時に「ヌーヴェルヴァーグの祖母」とも呼ばれている。個人的にはパートナーのジャック・ドゥミが大好きなので、その流れでヴァルダ作品も見るようになり、独自のスタイルのファンになった。鑑賞したのは大分前ですが、まだブログに感想を書いていなかった3本について書き記しておきます。
『ラ・ポワント・クールト』(1955年)
写真家として活躍していたヴァルダの長編デビュー作。ゴダール、トリュフォー、シャブロルらのデビューに先駆けた1955年作品。
舞台は南仏の静かな漁村。村人たちの生活と、帰郷した男(フィリップ・ノワレ、若い)と彼を追ってパリからやって来た妻(シルヴィア・モンフォール)の対話を交互に描く。村人たちの仕事や生活を捉えたパートは生々しいドキュメンタリータッチ。夫婦の対話を描くパートは作り込んだ映像と台詞の応酬。終盤のダンスパーティー場面で両者が合流する。デビュー作から既にヴァルダのスタイルが確立していたことが分かる面白い作品だった。
『5時から7時までのクレオ』(1961年)
街頭ロケの生々しい映像と作り込んだポップな映像(ミシェル・ルグランを召喚しての歌の見せ場もあり)が巧みにミックスされ、主人公クレオ(コリーヌ・マルシャン)の心の移ろいと過ごした時間を丸ごと映し出す。
60年代ヌーヴェルヴァーグ最盛期に撮られた作品で、ゴダール、カリーナ、ブルアリ、コンスタンティーヌが劇中映画(サイレント喜劇)でゲスト出演。ゴダールは堂に入った喜劇役者ぶり。アンヌ・ヴィアゼムスキーの小説『それからの彼女』に描かれていた通り、「眼鏡を外すとバスター・キートンに似てる」のだった。
『ダゲール街の人々』(1975年)
当時ヴァルダが住んでいたパリ14区のダゲール通りの日常を綴るドキュメンタリー。香水屋、肉屋、時計屋、アコーディオン屋など様々な商店が立ち並ぶ下町の風景が何とも言えず味わい深い。可愛いおじさんおばさんおじいちゃんおばあちゃんがたくさん出てくるので和む。各自が夫婦の馴れ初めを語る場面なんてもう。
「ダゲール街」の由来は銀板写真を発明した19世紀の発明家の名との事。って黒沢清も題材に取り上げたダゲレオタイプじゃないですか。それを意識してか、肖像写真風に店に並んだ家族を捉えたショットもある。
商店街の人々、各店の仕事を丁寧に描いた後で、街にマジシャンがやって来てのイベント場面になる。マジックショーに街の人々が集う場面は、別に何も事件は起こらないけれど、それこそ『ナッシュビル』的群像劇のクライマックスのような面白さがある。