6月に読んだ本は14冊。まだブログに書いていなかった分について、簡単に感想を書き記しておきます。
『はじめに財布が消えた・・・ 現代ロシア短編集』(2019年)
全く馴染みのない現代ロシア作家の短編14篇。ヘンな題名にそそられて手に取ってみた。これが意外や軽妙な作品が並んでいてとても面白かった。中では以下の3篇が印象的、というか好みだった。粗野な引越し屋が階下までピアノを運ぶうちに音楽に目覚める『永久運動』(ヴィクトル・シェンデローヴィチ)。遠距離別居夫婦の顛末を描いた『酔っ払いコチョウザメ』(マーシャ・トラウプ)。飛行機で生きたコチョウザメを新鮮なままで運ぶコツというローカルな知識が楽しい。世界が消失していく中で最後に仕事が残るという不条理ホラー『はじめに財布が消えた…』(セルゲイ・デニセンコ)。
本書は2019年出版。それからコロナ禍、ウクライナ侵攻を通じて作家たちにどんな変化が訪れたか凄く気になるところだ。
キャシー・アッカー『血みどろ臓物ハイスクール』(1984年)
「女バロウズ」の異名を持つキャシー・アッカーのブレイク作。90年代に邦訳が出た時は気になりながら題名に抵抗があって手が出せなかった。(同じパターンがスラデック『遊星よりの昆虫軍X』)先日『クィア』を読んでバロウズ熱が再燃、その流れで手に取ってみた。
ううむ、これはこれは・・・。四文字言葉が乱れ飛び乱脈を極めるごった煮の文章スタイルで描かれる少女の彷徨の物語。作家ジュネとの異国の旅を経ての終章、『世界』『旅』で一気に高みに昇るような解放感に震えた。これはもしや若い頃に読んでいたらもっとダイレクトに熱狂できたかもしれない。できなかったかもしれない。今のアタマで読んだから細部まで楽しめたのかもしれず、悩ましい。
レアード・ハント『インディアナ、インディアナ』(2003年)
農場にひとり暮らす老人が主人公。インディアナの田舎暮らし、いろんなものが「見えて」しまう若き日の主人公が保安官と事件を解決していく回想、心を病んだ妻との文通、ただ一人の友人マックスとの交流などを交えつつ、老人の心象風景を描いた美しい作品だった。小説世界を楽しみながら、つい田舎に暮らす年老いた両親、そして自分の行く末を考えてしまった。俺はこの主人公のように思い出だけで生きていけるだろうかと。
老人の回想に登場する「庭のホースを相手に男が格闘する無声映画」とはリュミエールの『水をかけられた散水夫』かな。
マリー・ホール・エッツ『もりのなか』『また もりへ』
大好きな名作絵本を久しぶりに再読。『もりのなか』(1944年)は、男の子が森の中で動物たちと散歩をするお話。版画のような挿画のタッチが何とも味わい深く、飽きることがない。絵柄、最後に親が登場してすっと日常に移行するところなど、夢の感覚が非常にうまく再現されていると思う。
「ぼくは、かみの ぼうしをかぶり、あたらしいらっぱをもって、もりへ、さんぽにでかけました」
続編『また もりへ』(1953年)も名作。森の中で動物たちが自分の得意なことを競っている。男の子が笑うと、動物たちは「それが一番いい!」と驚嘆する。動物は笑うことができないからだ。迎えに来たお父さんが「わたしもお前のように笑ってみたいよ」というのが泣ける。
チャールズ・ボーモント『夜の旅その他の旅』(1960年)
「異色作家短編集」シリーズの一冊。ボーモントって誰?と思ったら、何とロジャー・コーマン作品の脚本家であり、コーマン最大の問題作『侵入者』の原作・脚本家なのだった。元々テレビ脚本家であり、『ヒッチコック劇場』『ミステリー・ゾーン』等で活躍した人物なのだという。そう聞くと納得の不思議で怖い話が並んでいる。収録作の中では少し毛色の違うミュージシャンの話『夜の旅』が好きだった。
ホラー色の強いファンタジー短編集。気の利いたオチみたいなものはなくて、長く続いている物語の一部分を切り取ったような奇妙な感覚だ。『ルイーズのゴースト』では幽霊とジョニー・キャッシュを聴く。収録作の中では盗癖のある女の子と鳥嫌いの男の子の物語『飛行訓練』が好きだった。男の子を失った女の子は地獄を目指す。
ディーノ・ブッツァーティ『モレル谷の奇蹟』(1971年)
『タタール人の砂漠』のブッツァーティが描く聖女リータの奇蹟の数々。宗教画というよりポップアート、奇蹟というより法螺話みたいなタッチが楽しい。ユーモラスでエロティックでちょっぴりグロテスク。宇宙人まで出てくる。中では「火山から973匹の狂猫が噴出した話」「脳に入り込む蟻の話」が強烈だった。
J・G・バラード『永遠へのパスポート』(1963年)
久しぶりにバラードの初期短編集を。何といっても『砂の檻』だ。この素晴らしさは永遠に色褪せることはないだろう。
何故こうもバラードが響くのかと考えたら、あんまりSFとして読んでないからかもしれない。他人事に思えないというか。
アントニオ・タブッキ『インド夜想曲』(1984年)
初タブッキ。失踪した友人を探してインドを旅する男。探偵小説的な興味と、少ない言葉で異国の情景を浮かび上がらせる見事な筆致に一気読み。狐につままれたような結末も好みだった。語り過ぎず余韻があってとても良い。肉体は自分を運ぶ鞄だという。ならば私のAtman(アートマン)は何処にあるのだろうか。
これ映画化されてるのか。監督は『セリ・ノワール』のアラン・コルノー。見たいな。
アントニオ・タブッキ『夢のなかの夢』(1992年)
タブッキが敬愛する芸術家たちが見た(かもしれない)夢を描いた幻想的な短編集。中では『建築家にして飛行家、ダイタロスの夢』『作家にして破戒僧、フランソワ・ラブレーの夢』が好きだった。タブッキ良いなあ。語り過ぎず、こちらの妄想の余地を残してくれているのが有難い。もっと読んでみよう。






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