Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『あみこ』『ナミビアの砂漠』(山中瑶子)

 

 邦画強化月間、山中瑶子監督『ナミビアの砂漠』鑑賞。新宿シネマカリテにて。

 「(日本は少子化と貧困で滅ぶから)これからの目標は生存だ」と、暴力と罵声込みで生に抗うことをやめないカナ(河合優実)が主人公。物語に回収されない生身の女性が映画を牽引する様は実にスリリングだった。映画を時代と切り結ぶドキュメントとするならこれは満点だろう。これでもう少し映像的な面白味があればなと思ったなあ。

 主人公カナのキャラの強靭さ(凶暴さ?)には目が離せず、傑作判定に異存はないけど、見ていて非常に疲れた。カナと同棲相手の共依存関係、すぐ「ゴメンね」と繰り返す不甲斐ない男たちにもイライラ。自分の過去のあれやこれやをつい思い出してしまったりして。や、それぐらい生々しい迫力があったのだ。本作を単なる「映画」として楽しめた人が羨ましい。

 主人公カナのパーソナリティーは一筋縄ではいかない。嘘、相手を品定めするような言動、暴力、共依存性など、それに加えて同棲相手との喧嘩をウォーキング・マシンに乗ってモニターで鑑賞してる描写や焚火のくだりなど、ある種の症例を描いているようにも見え、カナの言動を「現代女性の本音を描いている」みたいに一括りにしてしまうのはちょっとニュアンスが違うような気もする。

 

 『あみこ』(2017年)は山中監督のデビュー作。すでにオリジナルなリズムで映像表現を使いこなしていて痛快な作品だった。サッカー部の人気者のアオミ君に想いを寄せる女子高生あみこ(春原愛良)の暴走を描く青春映画。2人で語らいながら山道を歩く内に夜が更けてくる場面や、レモン、五百円玉といった小道具も印象的。

 後半、あみこはアオミ君を追って長野から上京、ストーカーと化す。自意識過剰なあみこの暴走ぶりにはハラハラしつつ笑ってしまった。池袋の街をズンズン歩くあみこのバックに流れるのは『その男凶暴につき』の曲かな? あみこは「魂」の関係を裏切って腑抜けたただの男に成り下がったアオミ君(レディオヘッドからの転向告白!)に鉄槌を下す。あみこの拳に描かれた四文字が眩しい。

 山中監督は製作時19歳~20歳頃だったというから恐るべし。山中監督(1997年生まれ)には、このまま独自路線を突き進んで欲しいな。