Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『奪われた家/天国の扉 動物寓話集』『秘密の武器』『すべての火は火』(フリオ・コルタサル)

 今年はこれまで触れてこなかった作家をなるべくたくさん読んでみようと思い、図書館でほとんどジャケ買いならぬ表紙借りを繰り返している。これまでジェフリー・フォード、フリオ・リャマサーレスら手応えのある作家に巡り合うことができた。今回はアルゼンチンの幻想文学作家フリオ・コルタサルにトライ。

 

 

『奪われた家/天国の扉 動物寓話集』(1951年)

 政治的寓話『奪われた家』から、怪しげな盛り場で死んだ女の幻を追う『天国の扉』まで、一口に幻想文学といっても作風はバラエティに富んでいる。中でも印象的だったのは、喉の奥から小ウサギを産む奇怪な現象に悩まされる『パリへ発った婦人への手紙』、謎の動物マンクスピアの世話をする『偏頭痛』。『偏頭痛』の妙な熱っぽさには危険な手触りがある。てかマンクスピアって何なんだ。

 

 

 

『秘密の武器』(1959年)

 『奪われた家/天国の扉 動物寓話集』が面白かったのでコルタサルについて調べたら、何とアントニオーニ『欲望』の原作者だった!これはぜひ読んでみたいと思い、『欲望』の原作『悪魔の涎』を収録した短編集『秘密の武器』を手に取ってみた。

 『悪魔の涎』、チャーリー・パーカーをモデルとしたJAZZ小説『追い求める男』、ニューロティック・スリラー風の『秘密の武器』他5篇。

 映画『欲望』の原作『悪魔の涎』は、カメラマンが公園で奇妙なカップルを隠し撮りし、引き伸ばした写真から事件を幻視する。映画の前半部分に当たる内容だった。スウィンギング・ロンドンを舞台にアルゼンチンの幻想文学の映像化を試みるアントニオーニの異能を再認識。

 

 

 

『すべての火は火』(1966年) 

 Xでコルタサルについてポストしたら、FFさんがゴダール『ウィークエンド』の原作があるよと教えてくれた。アントニオーニの次はゴダールかと眩暈を覚えつつ、その『南部高速道路』を収録した短編集『すべての火は火』を手に取ってみた。

 連続絞殺魔が徘徊するパリを描く『もう一つの空』、ギリシャの孤島で生死が鮮やかに交錯する『正午の島』他8篇。

 『南部高速道路』は、高速道路に空前の大渋滞が発生、渋滞は一向に解消されぬまま時が過ぎ、季節が巡る‥‥というお話。ゴダール『ウィークエンド』の原作(ネタ元?)と言われると成程なと。渋滞の中からコミューンが形成されていったり、暴力沙汰に発展するあたり確かに『ウィークエンド』っぽい。本作は1966年作、『ウィークエンド』が1967年。ゴダール若松孝二的めざとさよ。さらにこれは交通渋滞SFとしてバラードの先駆ではないか。本作が70年代に入りバラードのテクノロジー三部作や山野浩一『メシメリ街道』に繋がるのかと思うと興奮を禁じ得ない。