Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

ビリー・ワイルダーミニ特集(その2)

 ワイルダーのミニ特集の続きです。

 

 

麗しのサブリナ』(1954年)

 主演オードリー・ヘプバーン。実はヘプバーンって全然ピンと来なくて、今回が初鑑賞。大富豪の息子たち(ハンフリー・ボガートウィリアム・ホールデン)と、お付きの運転手の娘サブリナ(ヘプバーン)。身分違いの恋の顛末を描いたロマンティック・コメディ。実に真っ当なラブコメで、ワイルダーらしい悪ふざけは割れたグラスでお尻を怪我するギャグくらいか。

 ヘプバーンのお相手はハンフリー・ボガートウィリアム・ホールデンのおじさん2人。ボギーは「恋に目覚める仕事人間」という役柄だけど、ちょっと重すぎる気がしたなあ。当時ヘプバーン25歳、ボギー55歳と歳の差も大きい。怖い顔で「家族だから大丈夫、同じだろう」としつこく言うのには笑ってしまったが。

 

 

 

『七年目の浮気』(1955年)

 マリリン・モンローの白いスカートふわりが有名な作品。大昔にTVの吹替洋画劇場で見て以来、久々の再見。妻子を避暑地のバカンスに送り出し久々の独身状態を謳歌する中年男(トム・イーウェル)が、隣人の美女と大騒ぎを繰り広げる。モンローの見事なコメディエンヌぶりを堪能できる。「私色々持ってるけど、想像力だけは無いの」ってのには笑った。延々とひとりノリツッコミを続けるトム・イーウェルはウディ・アレンの原型のようだ。

 DVD特典映像のメイキングによると、本作はヘイズ・オフィスの介入により際どい台詞が大分カットされているとの事。そのせいかワイルダーにしてはいまひとつ毒気と切れ味に欠ける。ワイルダーの作品というよりもモンローの作品という印象だ。モンローは登場する度に過剰なオーラを放ちまくって場面をさらう。

 

 

 

アパートの鍵貸します』(1960年)

 これまた大昔にTVの吹替洋画劇場で見て以来、久々の再見。サラリーマンが出世のため上司の情事にアパートの部屋を提供する、というかなり生臭いシチュエーションを、ユーモラスに(でも毒気は失わず)描くワイルダー匠の話芸を堪能。割れた手鏡、テニスラケット等、小道具も印象的。パワハラ、セクハラやりたい放題の子供っぽい上司どもにはさすがに時代を感じる。

 主演ジャック・レモンシャーリー・マクレーン。いい気になって浮かれ騒ぎ、上司や彼女に裏切られてしょんぼり落ち込む姿の味わい深さは小市民系俳優の代表格ジャック・レモンの真骨頂。ショートカットのシャーリー・マクレーンが初々しくて可愛い。幕切れが最高に良い。

 

 

 

『恋人よ帰れ! 我が胸に』(1966年)

 名コンビ、ジャック・レモンウォルター・マッソーの初共演作。フットボール中継中、選手のタックルを受けて病院送りとなったTVカメラマン(ジャック・レモン)。義兄の弁護士(ウォルター・マッソー)の入れ知恵で、半身不随を装い巨額の損害賠償をせしめようとするが‥‥。邦題からてっきり恋愛ものだろうと思ってたら、めっちゃ意地の悪い(ハートウォーミングじゃない)コメディだった。自分がワイルダーに期待してるのは正にこういうノリだったので大いに楽しめたけど、この邦題は如何なものかと思うなあ。

 「優しいけど一文の得にもならない男」呼ばわりされるジャック・レモン。本作は実際意地の悪い酷いお話だけど、最後はまさかの爽やかな感動作として着地する。あれはジャック・レモンのキャラクターあってこそだろうと思う。狡猾な弁護士役ウォルター・マッソーの目つきが凄い。あんな目つきの悪い奴は『アメリカン・スプレンダー』のポール・ジアマッティくらいしか思いつかない。

 

 

 

シャーロック・ホームズの冒険』(1970年)

 「ワトスン博士の死後50年を経て発見された非公開の事件簿」という設定で展開するオリジナルストーリー。ミステリー好きのワイルダーらしいひねりの効いた愉快な作品。マニアではないので再現度は分からないけど、ロバート・スティーヴンス(ホームズ)、コリン・ブレイクリー(ワトスン)とも雰囲気は出ていたのではないかな。ホームズの兄役はクリストファー・リーで、さすがの堂々たる風格。タイトルデザインは007シリーズで知られるモーリス・ビンダー。ワトスンがバレリーナと踊り狂うあたりの過剰なノリの良さはワイルダーらしくて楽しいけれど、ネス湖ネッシー騒ぎの後半はネタの割に少々重い雰囲気になる。Wikipediaによると元々4時間の大作だったものを大幅カットしたとのことで、コミカルなエピソードが減ってしまったということらしい。何と勿体ないことを!

 

 

 

 という訳でビリー・ワイルダーミニ特集でした。今回は初期のシリアス作品の面白さが発見でした。特に『地獄の英雄』は大傑作だと思います。全作見ている訳ではないですが、今現在のBEST10を挙げておきます。

 

①『サンセット大通り』(1950年)

②『地獄の英雄』(1951年)

③『情婦』(1958年)

④『お熱いのがお好き』(1959年)

➄『アパートの鍵貸します』(1960年)

⑥『フロント・ページ』(1974年)

⑦『熱砂の秘密』(1943年)

⑧『深夜の告白』(1944年)

⑨『恋人よ帰れ!我が胸に』(1966年)

⑩『悲愁』(1978年)