Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

音楽映画ベストテン

血と砂 [DVD]

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 ワッシュさん「男の魂に火をつけろ!」http://d.hatena.ne.jp/washburn1975/20151031の音楽映画ベストテンに投票します。順不同です。


ストップ・メイキング・センス』(ジョナサン・デミ) 1984年 アメリ
『ラストワルツ』(マーティン・スコセッシ) 1978年 アメリ
ヤング@ハート』(スティーヴン・ウォーカー) 2007年 イギリス
悪魔とダニエル・ジョンストン』(ジェフ・フォイヤージーグ) 2005年 アメリ
テルミン』(スティーヴン・M・マーティン) 1993年 アメリ
『SUPER FOLK SONG ピアノが愛した女。』 (坂西伊作) 1992年 日本
『ハイ・フィディリティ』(スティーヴン・フリアーズ) 2000年 アメリ
ブルース・ブラザース』(ジョン・ランディス) 1980年 アメリ
『24アワー・パーティ・ピープル』(マイケル・ウィンターボトム) 2002年 イギリス
ナッシュビル』(ロバート・アルトマン) 1975年 アメリ

 
 一言で「音楽映画」と言っても様々なサブジャンルがあり、次々と作品名が思い浮かぶので選ぶのに苦労しました。件の『セッション』は未見です。邦画では『サイタマノラッパー』とか『ライブテープ』『トーキョー・ドリフター』が未見なので気になるところ。


 ワッシュさんがベストテンで岡本喜八監督の『ジャズ大名』をエントリーしていました。喜八監督と「音楽映画」といえば、『血と砂』が忘れられません。敗戦直前の中国戦線で、軍楽隊の少年兵13人とはぐれ者部隊が中国軍の砦奪還に挑むというお話。軍楽隊の少年兵が1人また1人と死んでいって(楽器が減っていって)合奏が出来なくなってしまうという、思い出すだけでも辛い映画でした・・・。さておき、選んだ10本について、簡単に紹介してみます。



ストップ・メイキング・センス』(ジョナサン・デミ) 1984年 アメリ


 「音楽映画」と聞いて真っ先に思い出すのがこれです。トーキング・ヘッズのアルバム『Speaking In Tongues』(1983年)のツアーを撮影したライヴ・ドキュメンタリー『ストップ・メイキング・センス』。照明や美術が異様に凝っているんですが、そこをさらりと撮るのがジョナサン・デミ流です。バンドの演奏は終始楽しげで、デヴィッド・バーンのエキセントリックなパフォーマンスもたっぷり楽しめます。一番勢いのあった頃のトーキング・ヘッズの最良の記録として、またライヴ・ドキュメンタリー映画のお手本として、今後とも語り継がれていくであろう素晴らしい映画だと思います。ジョナサン・デミは本作の他にもニール・ヤング、ロビン・ヒッチコックらのライヴ・ドキュメンタリーを手掛けています。また自作の音楽にジョン・ケイルデヴィッド・バーン、ブルース・ラングホーンといったロック・ミュージシャンを起用するなど、ロック好きらしいこだわりが感じられます。




『ラストワルツ』(マーティン・スコセッシ) 1978年 アメリ


 豪華ゲストを迎えて行われたザ・バンドの解散コンサートのライヴ・ドキュメンタリー。ビデオを入手して繰り返し見ていた映画なので、スクリーン(今は亡き吉祥寺バウスシアターのレイトショー)で再見出来た時には感激しました。ヴァン・モリソンの熱唱と上がらないキック。伊達男Dr.ジョンの上着の花柄模様。コワモテの黒人ローディーが曲に合わせて楽しげに歌っている様子。パンするタイミングを間違ったキャメラがゆらゆらと宙をさ迷うような動きをするところ。バックステージの暗闇でスタッフが点す煙草のあかり。気の合ったメンバー同士が交わす、目配せ・・・。ああ、あんな目配せを交わし微笑みあえる友人がいるというのは本当に崇晴らしい!「同じことさ!」でガース・ハドソンのテナーサックスが入るところと、「ディキシー・ダウン」のイントロは何度見ても泣けます。撮影はスコセッシ御用達のマイケル・チャップマンと、ラズロ・コヴァックスヴィルモス・ジグモンドという今にして思えば超豪華(そしていかにも70年代的)な面々です。本作をはじめとして「音楽映画」を何本も作っているスコセッシは、劇映画でも既成曲の使い方に音楽好きらしい技を見せてくれます。ニック・ノルティ演じる画家がプロコルハルムを爆音で流しながら絵を描く『ニューヨーク・ストーリー』なんかも印象深いところ。




ヤング@ハート』(スティーヴン・ウォーカー) 2007年 イギリス


 アメリカ・マサチューセッツ在住のコーラス・グループ「ヤング@ハート」(平均年齢80歳)が、年に一度のコンサートに向けて練習を重ねてゆく姿を追う異色のライヴ・ドキュメンタリー。彼らのレパートリーはロックの名曲のカヴァー。選曲が凄まじくて、ザ・クラッシュソニック・ユースに始まり、ジミ・ヘン、ラモーンズデヴィッド・ボウイスプリングスティーンJBゾンビーズ、コールドプレイなど新旧とりまぜたロックの名曲を次々カヴァーしていきます。高齢のメンバーが多いだけに、コンサートを前にして1人、また1人とこの世を去っていくのが衝撃的です。(メンバーがからりと明るいのと、演出がテンポよく進んでいくので決して深刻な雰囲気にならないのが救い)主要メンバーが脱落する中で、なおも練習を続ける姿を通して、「歌の力って何だろう?」というテーマがくっきり浮かび上がってきます。また、オリジナルよりもテンポを落として老人たちが丁寧に歌い上げる事で、原曲とは違った味わいが生まれたり、原曲の持つ構造やメッセージがより明確に浮かび上がったりするあたりも面白い。


ヤング@ハート [DVD]

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 他にライヴ・ドキュメンタリーとしては『ザ・フー/キッズ・アー・オールライト』、『イヤー・オブ・ザ・ホース』も印象に残っています。ニール・ヤングは映像関連にも意欲を燃やしていて、『イヤー・オブ・ザ・ホース』『ニール・ヤング/ハート・オブ・ゴールド』『グリーンディル』等多数あります。中にはヤング+ディーヴォの珍品『ヒューマン・ハイウェイ』(バーナード・シェーキー監督=ニール・ヤングの別名)なんてのも。


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悪魔とダニエル・ジョンストン』(ジェフ・フォイヤージーグ) 2005年 アメリ


 ミュージシャンを対象としたドキュメンタリー映画といえば、スコセッシの『ジョージ・ハリスン/リヴィング・イン・ザ・マテリアル・ワールド』、『ボブ・ディラン/ノー・ディレクション・ホーム』、写真家ブルース・ウェーバーがモノクロでチェット・ベイカーを捉えた『レッツ・ゲット・ロスト』等々、色々あります。中でも好きなのは、孤高のシンガー・ソングライターダニエル・ジョンストンの半生を描くドキュメンタリー『悪魔とダニエル・ジョンストン』。ダニエルの狂気と、個性的な音楽性、家族を始めとした周囲の苦悩に迫る力作です。これはテリー・ツワイゴフの『クラム』に通じる、サブカル心病み系ドキュメンタリーの傑作だと思います。全編に流れるあまりにオリジナルすぎるダニエルの楽曲と子供みたいな不思議な歌声が忘れられません。映画の最初の方で、子供の頃にダニエルが自作自演した8ミリが出てきますが、これが強烈でした。別人のごとく肥大化した現在のダニエルの姿もショッキング。「子供のまま大きくなった」ってのはあのことなのかと。


悪魔とダニエル・ジョンストン [DVD]

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テルミン』(スティーヴン・M・マーティン) 1993年 アメリ


 電子楽器テルミンの発明者テルミン博士についてのドキュメンタリー。発明家であり音楽家でありKGBのスパイ(?)でもあったテルミン博士の人生は正に波乱万丈。発明家としてアメリカに渡りテルミンを発明、テルミンを応用した様々な珍実験(テルミンダンサー!)を行っていましたが、ある日旧ソ連の組織によって連れ去られ、シベリアの収容所に軟禁されてしまいます。そこで盗聴器の開発などに従事し、解放後はモスクワの音楽学校で教えていたといいます。映画は愛弟子であるテルミン奏者と数十年の歳月を経て再会する感動的な場面で終わります。そもそもテルミンという楽器自体それほど一般的なものではないと思われます。映画の中でも、芸術として認められる為にオーケストラとの共演など熱心な演奏活動を続けるテルミン奏者たちの様子が描かれていました。そんなテルミン奏者たちの思惑とは別に、ハリウッド映画の劇伴ではSFやホラーでおどろおどろしい雰囲気を醸し出す楽器としてしか使われなかったというのがおかしい。(ヒッチコックの『白い恐怖』、ワイズの『地球が静止する日』等々)


テルミン ディレクターズ・エディション [DVD]

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『SUPER FOLK SONG ピアノが愛した女。』(坂西伊作) 1992年 日本


 ミュージシャンの創作現場に密着したドキュメンタリー映画として思い出すのは『SUPER FOLK SONG ピアノが愛した女。』です。関係者のコメント交えつつ、矢野顕子のアルバム『SUPER FOLK SONG』のレコーディング風景を描いています。正直言って矢野顕子は苦手なアーティスト(凄い人だなあと思いつつ、彼女の醸し出す雰囲気に開放感よりも息苦しさを感じてしまうもので)でしたが、この映画を見た時はあまりに感動したので、慌ててアルバムを買いに走った覚えがあります。『SUPER FOLK SONG』はピアノの弾き語りで既成の名曲(はちみつぱいの『塀の上で』他)をカバーしたアルバム。原曲が彼女のピアノと歌声によって新しく生まれ変わる瞬間が捉えられています。


SUPER FOLK SONG~ピアノが愛した女~ [DVD]

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 他にミュージシャンの創作現場に密着したドキュメンタリー映画としては、ゴダールストーンズ奇跡のコラボレーション『ワン・プラス・ワン』があります。名曲『悪魔を憐れむ歌』が次第に完成していく過程を、ゆっくりと回転しながら捉えるカメラの動きが忘れられません。




『ハイ・フィディリティ』(スティーヴン・フリアーズ) 2000年 アメリ


 ミュージシャンではなくて音楽ファンを主人公にした映画もあります。ニック・ホーンビーの同名小説を映画化した『ハイ・フィディリティ』もそんな一本。原作を読んだ時は、主人公のものの考え方や行動が怖いくらい自分にソックリで、悶絶しました。すぐにベスト10を作りたがるとか、お薦めの曲を入れたテープを編集してプレゼントするとか、痛過ぎる・・・。映画は舞台をイギリスからアメリカに変えて、主人公をジョン・キューザックがヤング・ウディ・アレンってなノリで生き生きと演じています。その分原作よりも陽性のキヤラクターになっていて、痛さや切なさは原作には及ばないものの、これはこれで上出来だと思いました。エンディングも楽しい。主人公が勤める中古レコード屋の店員二人組(1人はブレイク前のジャック・ブラック)が最高で、笑わせてもらいました。音楽の楽しさ、音楽無しでは生きられない音楽ファンの姿を軽妙に描いた名作だと思います。


ハイ・フィデリティ 特別版 [DVD]

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ブルース・ブラザース』(ジョン・ランディス) 1980年 アメリ


 『ブルース・ブラザース』ってジャンル的にはコメディ映画なんじゃないのという話なんですが、ご覧になった方は分かると思いますが、演奏シーンの気合の入り具合が半端じゃなくて、完璧に「音楽映画だ」と言って差し支えないと思います。言うなれば、キートンマルクス兄弟の芸を持たない者がどうやってスラップスティック映画を作るのか。若きジョン・ランディスはこの映画において、ソウルミュージックへの愛でその究極の難題を乗り切ったという感じです。ジェイクとエルウッドが悪ふざけするギャグ場面よりも、演奏場面の方が格段に画面のテンポも切れ味も良くて、映画の推進力となっています。ブルース・ブラザースとバンドのメンバーはもちろん、ゲストで登場するJBアレサ・フランクリンレイ・チャールズら超大物アーティストも皆生き生きと楽しそうで、音楽の楽しさを満喫させてくれます。最近のハリウッド映画はピカピカし過ぎてて落ち着かないけど、まだ70年代を微妙に引きずっている本作は衣装や小道具など美術が全編いい塩梅に汚れているのが何とも魅力的です。



 ミュージシャンを主人公とした劇映画というのも色々あります。実在のミュージシャンを主人公とした伝記映画(チャーリー・パーカー『バード』、ザ・フォー・シーズンズジャージー・ボーイズ』、ジョニー・キャッシュウォーク・ザ・ライン/君につづく道』、『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』等々)。『アマデウス』なんかもありますね。伝記映画以外にも、『クレイジー・ハート』、『センチメンタル・アドベンチャー』等々。『プレスリーVSミイラ男』なんてのもありますがあれは「音楽映画」ではないですね。アーティストを目指す若者たちの苦闘を描いた青春映画『フェーム』も忘れられません。


フェーム 特別版 [DVD]

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『24アワー・パーティ・ピープル』(マイケル・ウィンターボトム) 2002年 イギリス


 元TVレポーターで、ファクトリーレーベルの社長でありクラブ「ハシエンダ」のオーナーだったトニー・ウィルソンの半生記を描いた伝記映画(というか馬鹿一代記)。いかにもイギリスっぽい自嘲的なユーモアを織り交ぜつつ、当時の音楽シーンを活写しだのはマイケル・ウィンターボトム。前半のインディーレーベルの立ち上げと成功までをジョイ・ディヴィジョン、後半のレイヴカルチャーの成功とファクトリーの没落までをハッピー・マンデーズに代表させてすっきりまとめているのが上手い。イアン・カーティスの自殺の下りなどしんみりした場面もありますが、ほとんどノスタルジックな感傷に陥らないのがいいなあと。映画の終盤、ハシエンダのラストパーティを終えて、明け方にビルの屋上に出るトニー。そこには仲間達が待っていて、ハッパを吸っています。トニーも一服。ハイになったトニーには、神様が見えます。「今神様が見えた」とトニー。「どんな奴だった?」と仲間。トニー曰く「俺に似ていた」。この誇大妄想ぶりには大笑いでした。


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ナッシュビル』(ロバート・アルトマン) 1975年 アメリ


 カントリー&ウェスタンのメッカとして有名なナッシュビルで、それぞれの事情を抱えて右往左往する登場人物たちを描く群像劇。多彩な登場人物たちを結び付けているのが音楽です。名作珍作数多いアルトマン作品の中で、カントリー&ウェスタンの混沌としたエネルギーを通じてアメリカを描く本作は、間違いなく代表作のひとつだと思います。クライマックスはナッシュビルで行なわれる大統領候補のキャンペーン大会。そこで複数のプロットが1点に集約するかと思いきや、そこはアルトマン、そんな納まりのよい映画などになるはずもなく、絶妙の脱力ぶりには唖然とさせられます。ちなみにアルトマンは遺作となった『今宵、フィッツジェラルド劇場で』(2006年)でも、カントリー&ウェスタンの公開ラジオショーを描いて音楽へのこだわりを見せてくれました。


ナッシュビル [DVD]

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 ティム・ロビンス(晩年のアルトマン作品にも出演している)が監督・主演した『ボブ★ロバーツ/陰謀が生んだ英雄』は、アメリカ上院議員選挙に立候補した人気歌手の姿を描いたブラック・コメディ。あれは『ナッシュビル』の子孫のような作品だったなあと思います。




別枠『マニアの受難 PASSION MANIACS MOONRIDERS THE MOVIE』(白井康彦) 2006年 日本


 「音楽映画ベストテン」というセレクトには相応しくないような気がして敢えて外しましたが、我が心の1本はこれです。最愛のロンクバンド、ムーンライダーズドキュメンタリー映画『マニアの受難 PASSION MANIACS』。ムーンライダーズは、2011年の活動休止宣言に至るまで約35年という息の長い活動を続けたバンドですが、誰しも知っているヒット曲はありません。数多のレコード会社を渡り歩きながら、それでも何故彼らが35年もやり続けてこれたのか、その理由が、そして歓びと哀しみが垣間見える興味深いドキュメンタリーです。