Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『猫に裁かれる人たち』(ヴォイチェフ・ヤスニー)

 

 先に読んだ『ビルバオ―ニューヨーク―ビルバオ』で知ったチェコの映画監督ヴォイチェフ・ヤスニー。『猫に裁かれる人たち』(1963年)というヘンなタイトルの映画を監督していると知り、気になったのでチェックしてみた。

 

 小さな田舎町に巡業サーカスがやってきた。サーカス団にはサングラスをかけた猫がいて、人間の本性をカラフルな色で映し出す不思議な力を持っていた。大人たちは騒然となって猫を排除しようとする。子どもたちが猫を守ろうと立ち上がり、町全体を巻き込む騒動へと発展していく・・・というお話。なるほど「猫に裁かれる人たち」か!予想以上の「奇映画」でとても面白かった。

 

 ポップな映像とユーモアで体制や権力を批判するチェコ・ヌーヴェルヴァーグの系譜に連なる一本。猫の不思議な力で内面を見える化された大人たちがパニックに陥る場面の狂騒感!そこに動物と子供と魔法というファンタジー要素を加えたのがヴォイチェフ・ヤスニーの特徴だろうか。街並みや郊外の自然を捉えた映像が良いし、どこか牧歌的な雰囲気も楽しい。

 

 ヴォイチェフ・ヤスニーはミロシュ・フォアマン、イジー・メンツェル、ヴェラ・ヒティロヴァらチェコ・ヌーヴェルヴァーグの先輩に当たる人物のようだ。プラハの春が弾圧を受けて以降は祖国で活動できなくなり亡命、アメリカに移住したとのこと。『ビルバオ―ニューヨーク―ビルバオ』の作者キルメン・ウリベとはニューヨークで出会っている。

 

 本作は子供たちが生き生きと捉えられているのも見どころ。『ビルバオ―ニューヨーク―ビルバオ』にはヤスニーの子供好きの一面が印象深く描かれていた。蝶を捕えようと夢中になっている子供を見たヤスニーは「これは素晴らしい光景だ!」「フィクションもいいが、人生というものはまったくの別物だ」と叫ぶのだ。

 

 『生き残るヤツ』『男の傷』のイヴァン・パッサー(ミロシュ・フォアマンの協力者としても知られる)が助監督としてクレジットされていたのにも注目。