Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『時よとまれ、君は美しい/ミュンヘンの17日』

 

 1972年に開催されたミュンヘン・オリンピックのドキュメンタリー『時よとまれ、君は美しい/ミュンヘンの17日』(1973年)鑑賞。図書館の視聴覚コーナー(映画じゃなくてスポーツの棚)で見つけたDVD。ミュンヘン・オリンピックと言えば、スピルバーグの『ミュンヘン』でも描かれたテロ事件「黒い九月事件」が起きたことでも知られている。その辺もどのように取り入れられてるのか興味があって借りてみた。

 

 本作は原題Visions of Eightの通り、8人の映画監督によるオムニバス形式。参加した監督はユーリー・オゼロフ、マイ・ゼッタリング、アーサー・ペン、ミヒャエル・フレーガー、市川崑ミロシュ・フォアマンクロード・ルルーシュジョン・シュレシンジャー。冒頭のテロップにある通り、競技(勝敗)の記録には主眼が置かれていない。なのでスポーツのドキュメンタリーとしては非常に不親切な作りになっている。個人的にスポーツの勝敗にはこれっぽっちも興味が無いので、こういったアプローチもまあアリなのかなとは思うが、オリンピックという興味で見た人は退屈したことだろうなと思う。「黒い九月事件」はジョン・シュレシンジャー篇で少し触れられるのみだった。デリケートな案件で色々とあったのだろうなと想像できるが、これには少しがっかりした。

 

 本作の感想を一言で言うならば「スローモーションにうんざり」だろうか。

 

 アーサー・ペン篇は全編ほぼスローモーションで棒高跳び競技を映し出す。これはこれでアリかなと思ったけど、どの監督も馬鹿の一つ覚えのようにスローモーションで選手を映し出すので次第にうんざりしてきて、仕舞いには「スローモーション禁止!」と言いたくなった。    

 

 クロード・ルルーシュ篇は、ボクシングやレスリングを中心に様々な競技の敗者にフォーカスする。敗者たちの苦悶の表情を捉え続け、メロウな音楽で包み込む。8篇の中ではこれが一番良かったけど、オリンピックのドキュメンタリーの観客が見たいのはこういうのじゃないだろうとも思う。

 

 ジョン・シュレシンジャー篇は孤独なマラソン選手(結果は6位で表彰台には立てない)の走りと、祖国での練習風景を描き、その間に「黒い九月事件」の報道映像が挿入される。政治でも、オリンピックのお祭り騒ぎでもなく、孤独な闘いを続ける個人にフォーカスするのだという意図は伝わって来くるものの、いかにも中途半端な印象だった。

 

 音楽はヘンリー・マンシーニ。エンディングで流れるのはマンシーニの曲かなと思うけど、聖火入場の場面で流れていた曲(電子音がビュンビュン鳴り響くカッコいい曲)はマンシーニぽくない。『ヘルハウス』のブライアン・ホジソンもクレジットされてたので彼の曲なのかな。それとも実際に聖火入場のテーマとして使われた曲なのか。