『浮草』（小津安二郎）

浮草 [DVD]

『浮草』

　　監督／小津安二郎
　　脚本／小津安二郎、野田高梧
　　撮影／宮川一夫
　　出演／中村鴈治郎、京マチ子、若尾文子、川口浩、杉村春子

　　（1959年製作・119分・日本映画）　

　『お早よう』の子役・島津雅彦君の出ている小津映画を見たくて、もう一本。『浮草』（1959年）見る。　

　紀州の港町に嵐駒十郎（中村鴈治郎）率いる旅芝居の一座がやって来た。駒十郎には妻・すみ子（京マチ子）がいるが、以前この町を訪れた時小料理屋の女将（杉村春子）と良い仲になり、息子・清（川口浩）をもうけていた。そのことを知ったすみ子は激怒し、一座の加代（若尾文子）に清を誘惑させ仕返ししようとするが・・・。

　小津監督が松竹を離れ大映で撮った一作で、戦前に撮った自作『浮草物語』（1934年）のリメイクだという。とても人間臭くて面白い映画であったが、小津作品の中では異色の部類に入るのではないかと思う。屋外ロケがふんだんに盛り込まれていたり、登場人物が激しく感情をぶつけ合う場面があったり、妙にエロい描写があったり・・・。関西弁ってのもまた。主人公が女性に暴力を振るう場面も。土砂降りの雨の中、中村鴈治郎と京マチ子が怒鳴り合う場面など、ほの暗い路地といい滝のごとく流れ落ちる雨といいそれはそれは見事な演出なのだけど、いわゆる「小津調」のスタイルとは相当異質な印象を受けた。撮影監督が厚田雄春から大映の名手・宮川一夫に代わったのも一因か。小津調とは異質とはいいながらも、抑制の効いた描写は相変わらずなので、男女のもつれを描いていても泥臭くないのがとても良かった。

　中村鴈治郎、京マチ子、若尾文子、その他一座の面々の顔つき。港町の人々。それぞれに個性的で面白い。お目当ての島津君は、旅芝居一座の一員。若尾文子と舞台で踊り、おひねりを集める場面が楽しい。一座が解散することを知って、林檎を取り落として急に泣き出す場面も良かった。出番は短いながら見せ場があって楽しかった。