Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『ゴースト・トロピック』(バス・ドゥヴォス)

 

 

 バス・ドゥヴォス監督『ゴースト・トロピック』(2019年)鑑賞。イオンシネマ市川妙典にて。XのFFさんがお薦めしていたので気になっていた作品。まったく馴染みのないベルギー映画で、いわゆる単館系の地味な作品だけど、何故か近所のシネコンで上映されていたので、仕事明けに慌てて見に行った。

 

 終電車を逃した掃除婦(サーディア・ベンタイブ)が、徒歩で家路を辿る。深夜のブリュッセルの街。途中で出会う人たちとの交流。夜の空気の匂いまで感じられそうな映像で、主人公の体感する時間の流れがじっくりと描かれている。浮遊感のあるアコースティックな音楽がとても良い。

 

 主人公は時折大胆な行動をとる。昔働いていた家を覗いたり、病院に忍び込んだり、娘を尾行したり。ホラー映画じゃないから何も起きないと分かってはいるけど、ハラハラしながら見てしまった。

 

 最後に主人公の娘が鮮やかな色彩の浜辺で佇む映像が挿入される。『ゴースト・トロピック』(幽霊熱帯?)という奇妙な題名は、主人公の心の中にあるあの浜辺の風景のことなのだろうか。また後半に登場する犬、ロープが解かれて自由になったあの犬はどこを目指すのだろうか。

 

 映画を見ながら、過去にいろんな事情で終電逃して徒歩で帰宅した記憶が蘇った。もちろん映画の主人公と自分(呑気なサラリーマン)では抱えているものが随分違うだろうが、夜の空気や街の灯り、足の疲れ、昼間以上に刺激される好奇心など、そんなあれやこれやは共通しているように感じられた。

 

 エンドクレジットが地味に凝ってた。あの様な見せ方は初めて見たかも。そんなさりげない所も好きだったな。