Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

読書記録

 最近読んだ本で、まだブログに書いていなかったものをまとめて書き記しておきます。

 

『月の部屋で会いましょう』(レイ・ヴクサヴィッチ)

 全く知らない作家だったけど、岸本佐知子さん翻訳本なら間違いないだろうと手に取ってみた。肌が宇宙服になって空へ舞い上がる奇病とか、無茶苦茶シュールな光景をよくある出来事みたいにさらりと描くSF短編集。中では『彗星なし(ノー・コメット)』が好きだった。

 

 

 

『フングリコングリ 図工室のおはなし会』(岡田淳

 娘に薦められた児童文学。放課後の図工室を訪れる虫や動物たちに先生が語る六つの不思議なお話。各話にそれぞれ映像的な仕掛けが施されていて実に面白い。中でもクラス皆が透明人間になって校内で遊びまわるお話が最高だった。

 

 

 

『「映画」をつくった人 世界初の女性映画監督アリス・ギイ』(マーラ・ロックリフ)

 娘と行ったこども図書館で見つけた一冊。近年、映画のパイオニアとして再評価が進んでいるアリス・ギイの半生を題材にした絵本。こんなのが出てるとは思いもよらず感動。各章のタイトルにギイの作品名を引用するオマージュがあったりして凝ってる。

 

 

 

『三つの金の鍵 魔法のプラハ』(ピーター・シス)

 こちらも娘と行ったこども図書館で見つけた一冊。以前展覧会を見て感銘を受けた画家ピーター・シスの絵本で、翻訳は何と柴田元幸さんだ。気球が嵐にさらわれて、魔法と伝説の街・プラハに降り立った少年の冒険を描く。迷宮のような街、秘密の図書館など実にいい雰囲気だ。

 

三つの金の鍵

三つの金の鍵

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『自分の謎』(赤瀬川原平

 学生時代『超芸術トマソン』『路上観察学入門』読んで多大な影響を受けた赤瀬川さん晩年の著書で、「こどもの哲学 大人の絵本」シリーズ第一弾。これは自分と自分じゃないことの境界についての考察。

「鏡の中にいるのは、自分のようだけど、あれは自分ではない人だ。自分はここにしかいない。」(『目の問題』より)

「つまり痛いのが自分で、痛くないのはもう自分ではなくなった物らしい。とすると、いつも痛い側に自分はある。」(『痛い問題』より)

 

 

 

ジョージ・A・ロメロの世界 映画史を変えたゾンビという発明』

 『アミューズメント・パーク』公開時(2021年)に出たロメロ本。多数のロメロ論が掲載されていて、執筆者によって切り口、ジャンル愛、理解度、文体は様々だなと妙に感心してしまった。当たり前だけど。中でも児玉美月さんの『マーティン』論が出色。作品の魅力を余すところ無く伝えて素晴らしい。

 

 

 

『ぼくが映画ファンだった頃』(和田誠

 お馴染み和田誠さんの評論集。過去形のタイトルが気になって手に取ってみた。まえがきによると、もう新作を追いかけて映画館に足繁く通う「映画ファン」ではないけれど、現在もDVDで毎晩1、2本見ている「映画好き」は続けているとの事。そういう区分けなのか。

 三谷幸喜との対談で、ビリー・ワイルダーの映画は「人生の役には立たない」から面白いと述べていたのが面白かった。確かにワイルダーの映画には人生訓とかお説教じみたところないもんね。むしろ「人生の役になんか立ってたまるか」くらいの感じで。

 

 

 

『モダン・ネイチャー デレク・ジャーマンの日記』(1992年)

 映画監督デレク・ジャーマンによる1989年、1990年の日記。日記の大部分を占めるのはガーデニング。困難を極める映画製作。闘病生活。たくさんの死、たくさんの別れ。その中にはマイケル・パウエルの名も(1990.2.19)。バラード『殺す』を読む場面も出て来る(1989.11.24)。

 次々登場する綺羅星のごときアーティストたちには眩暈がしそうだ。ティルダ・スウィントン様は勿論、『遠い声、静かな暮し』のテレンス・デイヴィスも。他にはハワード・ブルックナーティモシー・ダルトンルー・リード、ペットショップボーイズ、ジョン・ギールグッド、ジョン・サヴェージイアン・マッケランマット・ディロン、デイヴィッド・ホックニーアンディ・ウォーホルトニー・リチャードソン、デイヴィッド・ニヴン、ケン・ラッセル、アンソニー・ボルチ、ポール・バーテル、ガス・ヴァン・サントアリス・クーパーピーター・グリーナウェイアンジェイ・ワイダアニー・レノックス・・・。

 印象的だったのは、映画を見ることについての記述。「個人映画」の作り手としての姿勢が伝わってくる。「今の私は友達のためか、もしくはノスタルジーでしか映画館へ足を向けない。作家の人生に基づいた作品でないと見ることができない。演技やカメラワークやあらゆる装置は、そこに自伝的な要素がなければ私にはほとんど楽しみをもたらさないのだ。」

 

 

 

『ほかの惑星への気楽な旅』(テッド・ムーニイ)

 タイトルと表紙で気になって手に取ってみた。本作は河出書房「ストレンジ・フィクション」シリーズの一冊。SF=Science FictionならぬStrange Fictionというわけだ。その名に恥じぬ不思議な小説だった。物凄くざっくり言うと、女性海洋学者、研究対象のイルカ、男性教師の三角関係の物語。かなり奇妙でややこしい小説だけど、映像的な喚起力が豊富でグイグイ読めた。表紙の折り返しの解説にバラード、ディック、バーセルミが引き合いに出されてたけど、世界観の提示と性描写には確かにバラード味を感じた。

「ぼくらは生存者だよ、ベイビー。水泳者であり、生存者だ」