Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『タイムスリップ』(黒沢清)

愛と不思議と恐怖の物語 7人の巨匠がおくる7つのショートストーリー [DVD]

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 先日亡くなった大杉漣追悼として、黒沢清監督の短編『タイムスリップ』(2002年)を鑑賞。鶴田法男、中田秀夫鴻上尚史らが参加したオムニバス『愛と不思議と恐怖の物語 7人の巨匠がおくる7つのショートストーリー』(関西テレビ、2002年)の一編。


 タイムスリップについて講義を始めた大学教授(大杉漣)が、タイムループにはまり込み講義が一向に先へと進まずパニックに陥る姿を描く。カメラは教室の入り口に向けた構図と、教壇に立つ教授を捉えた構図の2つの固定ショットのみ。教授はこの2つのフレームを出たり入ったり何度も何度も繰り返して、次第に常軌を逸してゆく。大杉漣は黒沢作品の常連。現場では次々奔放なアドリブを繰り出し、黒沢清が最終的にバッサリとカットしてしまうというパターンだったという。本作は黒沢清の編集と大杉漣のアドリブの戦いみたいにも見えて実におかしい。延々と同じ講義を繰り返していることに気がついた教授が全然関係ない話を始める場面には爆笑した。


 教授は時間の流れが逆行して過去に戻ってしまう「タイムスリップ現象」について、もし本当にそれが起こっても実感できないだろうと語る。人間は一人一人その人固有の時間を生きているから、客観的な時間がどれだけ逆行したとしても、当人にとっては時間というのはあくまでも、過去から未来へと向かう一つの普遍的な流れだと感じられるはずだ、と。黒沢清の映画でいわゆる「回想シーン」をほとんど見た覚えがないことを思うと、映画における時間についての彼の基本的な考え方のようにも思えて興味深い。さておき、いつか黒沢監督の本格的なコメディが見たいと思う。絶対に面白いと思うんだがなあ。


(『タイムスリップ』 TVM「愛と不思議と恐怖の物語 7人の巨匠がおくる7つのショートストーリー」挿話 監督・脚本/黒沢清 出演/大杉漣 2002年 10分 日本)