北千住シネマブルースタジオで開催中のピエール・エテックス特集、『大恋愛』『幸福な結婚記念日』鑑賞。9/3(火)までの上映だったので慌てて劇場へ。平日月曜の夜の回ということもあろうが、今回もお客さんは自分入れて3人だけの貸し切り状態だった。勿体ないなー。
『幸福な結婚記念日』(1961年)
脚本・監督ピエール・エテックス、ジャン=クロード・カリエール。エテックス2本目の短編作品(13分)。結婚記念日のディナーに家路を急ぐエテックスが、様々なトラブルに遭遇、なかなか辿り着くことが出来ない。後の『健康でさえあれば』同様、過剰な交通渋滞がエテックスの行手を阻む。サイレント喜劇の呼吸と街頭ロケーション生々しさが合体したエテックスならではの作品に仕上がっていた。待ちくたびれて先に酔っぱらっちゃう奥さんが可愛い。
『大恋愛』(1968年)
エテックス初のカラー長編。物憂げなシャンソンをバックにパリを空撮で捉えるタイトルバックからして実に良い雰囲気だ。結婚生活に膿んだ中年男(エテックス)が、若い美人秘書に妄想を爆発させる。やっとデートに持ち込むが、やっぱり俺には無理とすぐ諦めるのが潔い(のか?)。「若い娘と会話がかみ合わず、自分が年寄りになった気がする」というのをまんまやってるのが可笑しかった。
ベッドが車になって田舎道を滑るように進む夢のシークエンスが素晴らしい。そしてここでも交通渋滞が!
カラー作品、夫婦の軋轢の話とあって、『恋する男』や『ヨーヨー』に比べてサイレント喜劇的趣向は控え気味。しかし悪友に女性を口説く手ほどきを受ける場面、カフェのお客さんや通行人が見ている中で夫婦喧嘩しながら街を行く場面にはさりげなくエテックスのパントマイム芸が顔を出して笑いを誘う。
今回の2作品をもってブルースタジオで開催中のピエール・エテックス特集は終了。全7作品を鑑賞することができた。エテックスは自身のパントマイム芸を駆使したサイレント喜劇へのオマージュと、ヌーヴェルヴァーグの同時代性を感じさせる冴えた映像感覚で独自の喜劇映画を構築した。後にブニュエル作品を手掛けるジャン=クロード・カリエールが脚本家として協力しており、遅延や迂回の感覚が面白い効果を上げている。今回見た作品の中からエテックスの代表作を選ぶと、『ヨーヨー』(1964年)かな。