Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『ルックバック』(押山清高)

 

 

 藤本タツキ(『チェンソーマン』)原作の中編コミックを映画化したアニメーション『ルックバック』鑑賞。原作は未読。小学4年生の藤野と不登校の同級生・京本が漫画を通して成長していく姿を描く。

 

 これは評判通りの名作だった。好きなものに打ち込む喜び、同志と巡り会えた喜びを余すところなく描いた青春映画の逸品。描くべきことが描き切れているので、58分の上映時間でもちゃんと映画を見たという満足感があった。声を担当した河合優実と吉田美月喜が名演を聞かせる。

 

 劇中、帰り道の様子が繰り返し描写される。田舎道を往く登場人物の歩き方を通して、季節や天候はもちろん、主人公の感情や、2人の関係性の変化などが手に取るように伝わってくる。素晴らしい。あれが映画(的表現)ですよ。そしてこの雪国出身者に響く映像は・・・と思ったら原作者は同郷なんだな。

 

 紛れもない名作だと思うけど、鑑賞中、何かが間違ってるという違和感もあって。高らかに鳴り響く音楽かなと思う。あれは感動を押し付けてるような印象だった。劇伴としては良いのかもしれないけど、田舎の中高生に寄り添うのはもっと違う音楽な気がする。きっとこの映画ならではの、というかあの2人ならではの音楽があったんじゃないか、それを聴きたかったなと思う。無い物ねだりかもしれないが・・・。  

 

 個人的には、漫画に打ち込む2人の成長がとてもよく描けていたので、終盤の(いささかあざとい)展開はいらないんじゃないと思ったりもする。あれなくても充分名作だよと思う。しかし作者(作り手)としては京都アニメーションの放火事件などが頭にあったと思われ、暗転には必然性があったのかな。単に悲劇に終わるだけではなく、そこに漫画(想像力)の勝利が描かれているのはとても良かったと思うけど。