Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『ゴダールの探偵』『カルメンという名の女』(ジャン=リュック・ゴダール)

 

 早稲田松竹にてゴダール作品を特集上映。『小さな兵隊』『カラビニエ』『ゴダールの探偵』『カルメンという名の女』『ゴダールの決別』の5本。『探偵』と『カルメン』はずっと見直したいと思っていたので、日を変えて仕事明けに馳せ参じた。

 

 『カルメンという名の女』(1983年)は久々の再見。だいぶ前に一度見たきりだけど、意外なくらい細部まで覚えていた。それだけイメージが鮮烈だったという事か。正に目を撃つ耳を撃つゴダール。暗い海。波。雲の切れ間から差し込む光。演奏者たちの真剣な表情。ゴダールが怪演する隠居した映画監督のぼやき。あっと驚くトム・ウェイツの使用。ぐにゃぐにゃした動きと乾いた銃声が生々しい銃撃戦の演出は発明。あんな妙な手触りの銃撃戦は、他に黒沢清蛇の道』でしか見たことが無い。脚本アンヌ=マリー・ミエヴィル、撮影ラウール・クタール

 

 『ゴダールの探偵』(1985年)は学生時代に見て以来の再見。当時はさっぱり理解できず辛かった記憶。再見して驚いたのは、あれ、お話がちゃんとわかるじゃないかと。過去の事件を調査中の探偵たち、ボクシングのプロモーター、仲の冷え切ったパイロット夫婦、老ギャング一家。ホテルに宿泊した訳ありの人物たちが交錯する。何と言っても仄暗い映像、それぞれの事情でホテルの部屋に囚われた人物たちの陰影に富んだ表情がいい。

 『探偵』ってくらいだから、犯罪映画の意匠も少々、ホテルの部屋番号に関するトリック、拳銃。解説によると『ゴダールのマリア』の資金稼ぎとして「Star」(とクレジットされる)主演の映画を請け負ったのだという。ジョニー・アリディ、ナタリー・バイ、クロード・ブラッスールジャン=ピエール・レオー、若き日のジュリー・デルピーの姿も。本作はイーストウット、ウルマー、カサヴェテスに捧げられている。

 劇場の壁にはゴダールのインタビュー記事が貼られてあった。ヴェンダース『ハメット』について(褒めてる)、チャンドラー、ハメットについての言及あり。やっぱり好きなんだな。『ヌーヴェルヴァーグ』で『ロング・グッドバイ』を引用していたのも納得。

 『探偵』は大学1年生の時、映研サークルに入部した日に先輩たちに連れられて見に行った。渋谷のPARCO劇場ゴダール初体験。さっぱり意味がわからなくて辛かった。先輩方がどういうレクチャーしてくれたか全く覚えてない。同じ日、皆と別れてから新宿へオールナイト見に行った。青春映画4本立て。『アウトサイダー』『ランブルフィッシュ』『ファンダンゴ』『ティーンウルフ』。遥か遠い昔の話だ。

 

 今年は早稲田松竹ばかり行ってるような気がするな。基本2本立て1,300円、最終回のみなら800円、レイトショーは1,000円。小遣い亭主の懐には優しい良心的価格がありがたい。もちろん上映作品のチョイスも素晴らしい。