アグラヤ・ヴェテラニー『その子どもはなぜ、おかゆのなかで煮えているのか』(1999年)読む。XのFF様のポストで奇妙な題名を目にしてずっと気になってた一冊。これは強烈な作品だった。
サーカスの芸人一家に生まれた少女の魂の彷徨。一家は祖国ルーマニアの圧政を逃れ、サーカス団と共に放浪生活を続ける。全編、主人公の意識の流れを子供の言葉で紡ぐ事が徹底されていて、面白いフレーズが満載されている。本作は作者の自伝的小説なのだという。
「人は自分の故郷の匂いをいたるところで思い出す、と父さんは言う。ただしそれは、故郷から遠く離れているときだけだそうだ。」
父親はピエロ、母親は曲芸師。奇矯な家族の肖像。物語の前面には出てこないけれど、家族に疎まれながら自主映画を撮り続ける父親とその作品が気になった。家族や仲間をキャストに撮影されたその映画は、信仰がテーマと思われるがどう見てもZ級ホラーなのでおかしい。最後に描かれる場面だけは不思議な崇高さを湛えている。
「映画のなかで死んだら、ライトが消え、そのあとでまた生き返る。わたしが完全に死ぬことはない!」
奇妙な題名に惹かれたようで、本棚に置いていたら小6の娘が知らぬ間に読んでたのには焦った。「おかゆ面白かったよ」と言ってたけど。