Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『マイラ ―むかし、マイラは男だった―』(マイケル・サーン)



『マイラ ―むかし、マイラは男だった―』 Myra Breckinridge


 監督/マイケル・サーン
 原作/ゴア・ヴィダル
 脚本/マイケル・サーン、デイヴィッド・ガイラー
 撮影/リチャード・ムーア
 音楽/ジョン・フィリップス
 出演/ラクエル・ウェルチ、レックス・リード、ジョン・ヒューストンメエ・ウエストファラ・フォーセット
  (1970年・95分・アメリカ)


 いつの間にかこんなものがソフト化されていたのだな。マイケル・サーン監督のカルト作『マイラ ―むかし、マイラは男だった―』(1970年)。映画マニアの青年マイロン(レックス・リード)が、性転換手術で美女マイラ(ラクエル・ウエルチ)に変身。男性優位主義の保守的な年寄りたちやマッチョな若造たちを翻弄するというお話。


 公開当時のチラシのコピーに曰く、
「衝撃!背徳!ハレンチ!腐敗!堕落!頽廃! 全米に轟々と反響を呼んだベストセラーを華麗に映画化!」


 「衝撃!背徳!ハレンチ!腐敗!堕落!頽廃!」ってのは煽り過ぎでは?と思わないでもないけれど、確かに相当ショッキングな怪作であった。過去の映画クリップをふんだんに盛り込んだポップな編集、華やかなミュージカル調の演出、奇抜な性描写など、いくらベストセラーの映画化とはいえメジャー映画会社(20世紀フォックス)でこれやっちゃうの、というヘンな場面が頻出する。性差別を笑いのめして古い価値観をぶち壊そうという意図は充分に伝わってきた。テーマ的にはいささか突っ込み不足という印象もあるけれど。


 一番の見どころは、何と言っても主演のラクエル・ウエルチだ。セックス・シンボルとして一世を風靡したウエルチ。『ミクロの決死圏』『恐竜100万年』『女ガンマン・皆殺しのメロディ』といった出演作からボンクラ人気も高い(この辺がマリリン・モンローとの決定的な違いかも)。魅力的な女優であるのは分かっていたけれど、ここまでハジけた演技を見せてくれる作品は他にないのではなかろうか。場面ごとにカラフルな衣装替えを披露、露出度も高いし、歌って踊る見せ場もある。マッチョな青年を後ろからレイプなんて唖然とするような場面も・・・。コミカルな演技もさまになっている。ウエルチのファンなら必見と断言しよう。


 他の出演者は、俳優学校の経営者役で映画監督のジョン・ヒューストン。『チャイナタウン』でのおっかない演技も印象深いヒューストン、本作のようなコミカルな演技も上手い。芸能事務所の女社長役は、30年代ハリウッドのセックス・シンボルだったメエ・ウエスト。俳優学校の生徒役で、後にTV『チャーリーズ・エンジェル』で人気を博すファラ・フォーセットが競演。しかるに30年代・60年代・70年代のセックス・シンボルが顔を揃えた映画でもある訳だ。