Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『ヤング@ハート』(スティーヴン・ウォーカー)

ヤング@ハート [DVD]

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ヤング@ハート』(2007) YOUNG@HEART


 監督/スティーヴン・ウォーカー
 撮影/エドワード・マリッツ
 出演/ヤング@ハート
  (2007年・108分・イギリス)


 ずっと気になっていた音楽ドキュメンタリーヤング@ハート(2007年)がBSで放映されたのでチェックしてみた。「ヤング@ハート」はアメリカ・マサチューセッツ在住のコーラス・グループで、平均年齢は何と80歳。個性的なパフォーマンスで、全米のみならずヨーロッパでもツアーを成功させたという人気グループだ。単なる隠居老人の余興とは訳が違うのである。映画は、メンバーの個性的な老人たちが、年に一度のコンサートに向けて練習を重ねてゆく姿を追う。


 映画の冒頭でコンサート風景が映し出される。ステージには白いシャツを着た老人たちが並んでいる。杖をついた老婆がマイクに歩み寄り、曲が始まる。その曲は・・・ザ・クラッシュの「Should I Stay Or Should I Go?」! 続いて映し出されるメンバーの練習風景で、取り組んでいる新曲はソニック・ユースの「Schizophrenia」! これにはひっくり返った。「ヤング@ハート」のレパートリーは、何とロックの名曲のカヴァーなのであった。


 ザ・クラッシュソニック・ユースに始まり、劇中で彼らはジミ・ヘンドリクスラモーンズデヴィッド・ボウイブルース・スプリングスティーンジェームズ・ブラウンゾンビーズ、コールドプレイなど新旧とりまぜたロックの名曲を次々カヴァーしてゆく。一見時代もジャンルも脈絡のない選曲に思えるけれど、映画を見るとグループの指揮者ボブ・シルマンが慎重に選んだ意義深い曲たちであることが次第に分かってくる。メンバーの年齢から言っても、リズム感覚や声量は当然衰えているだろう。ボブがそんなメンバーに期待するのは「歌心」みたいなものだ。オリジナルよりもテンポを落とし、老人たちが丁寧に歌い上げる事で、原曲とは違った味わいが生まれたり、原曲の持つ構造やメッセージがより明確に浮かび上がったりする。これがとても面白かった。


 高齢のメンバーが多いだけに、脱落者もいる。コンサートを前にして、1人、また1人とこの世を去ってゆく。メンバーがからりと明るいのと、演出がテンポよく進んでいくので決して深刻な雰囲気にはならないのが救い。主要メンバーが脱落する中でなおも練習を続ける姿を通し、「歌の力って何だろう?」というテーマがくっきり浮かび上がってくる。


 メンバーが刑務所慰問のライヴでボブ・ディランの曲を歌う場面は中盤のハイライトだ。コワモテの受刑者たちの前で、老人たちが「FOREVER YOUNG(いつまでも若く)」を歌うのだ。マイ・フェイバリット・ソングであるトーキング・ヘッズの「Road to Nowhere」が歌われているのも嬉しかったなあ。ヘッズの原曲は青春のさすらいみたいな感触が感じられるけれど、齢80の老人たちが歌うとなれば「どこでもないところ」への道往きはさらに奥深くなっているのであった。


 クライマックスのコンサートは大盛り上がり。練習で四苦八苦していたソニック・ユースJBナンバー、アラン・トゥーサンもバッチリ決めて、メンバーは大喜びだ。いやあ楽しい映画であった。見て良かった。



ヤング@ハート−オリジナル・サウンドトラック(ライヴCD付2枚組)

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