Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『荒野の用心棒』(セルジオ・レオーネ)

荒野の用心棒 [DVD]

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『荒野の用心棒』 Per un pugno di dollari(A Fistful of Dollars)


 監督/セルジオ・レオーネ
 脚本/セルジオ・レオーネ、ドゥッチオ・テッサリ、ヴィクトル・A・カテナ、ハイメ・コマス
 音楽/ダン・サヴィオエンニオ・モリコーネ
 撮影/ジャック・ダルマス(マッシモ・ダラマーノ)
 出演:クリント・イーストウッドジョン・ウェルズジャン・マリア・ヴォロンテ)、マリアンネ・コッホヨゼフ・エッガー
 (1964年・99分・イタリア=西ドイツ=スペイン)


 「午前十時の映画祭」に、マカロニウエスタンが光臨!セルジオ・レオーネ監督、クリント・イーストウッド主演『荒野の用心棒』。まさかこれをスクリーンで見る日が来ようとは・・・。夢のようですよホントに。感涙にむせびつつ、劇場へ。ちなみに、スクリーンで見るマカロニウエスタンはこれで3本目だ。(後の2本は、1997年にリバイバルされた『殺しが静かにやって来る』『J&S/さすらいの逃亡者』)


 ロホス兄弟とバクスター一家という二つの勢力が争うメキシコ国境のある街に、凄腕のガンマン(クリント・イーストウッド)がやってきた。暴力で荒廃しきったその街に、男は用心棒として入り込むが・・・。


 黒澤明の『用心棒』を西部劇に翻案して大ヒット、マカロニウエスタン・ブームの火付け役となった名作である。監督セルジオ・レオーネを始め、主なスタッフはアメリカ風の変名を使用している。現在のバージョンでは監督名はちゃんとセルジオ・レオーネに戻っているが、当初のクレジットは「ボブ・ロバートソン」名義であった。他にも、音楽のエンニオ・モリコーネは「ダン・サヴィオ」名義、撮影のマッシモ・ダラマーノは「ジャック・ダルマス」名義、美術のカルロ・シーミは「チャールズ・シモンズ」名義となっている。


 エンニオ・モリコーネ先生、おっとダン・サヴィオによる心かきむしられるような素晴らしいテーマ曲が流れて、安っぽいが妙に味のあるアニメーションのオープニングが展開、名無しの男が姿を現す冒頭の場面でもう素晴らしきマカロニの世界へとトリップ。痛々しい暴力描写。「名無し」演じるイーストウッドの長身。悪党どもの濃い顔つき、特にジャン・マリア・ボロンテ(クレジットはジョニー・ウエルズ名義)の圧倒的な濃さ。脇役(特に酒場の親父、棺桶屋)の完璧な佇まい。俳優も音楽も映像も、全てにおいてマカロニ度100%の傑作。盗作疑惑という汚名ですら今や勲章だ。


 日本公開時の宣伝コピーは「砂塵吹く西部の町に嵐を呼ぶ必殺の早射ち!画面いっぱいにガンが炸裂する西部劇巨篇!」というもの。レオーネ作品としては後の『続・夕陽のガンマン』『ウエスタン』などは正に「巨編!」と呼ぶべき悠々たるタッチであったが、正直言って本作には「巨編!」というほどのスケール感は無い。舞台はほとんどゴーストタウンと化した街のオープンセットと岩場と河原のみ。にも関わらずそんなに安っぽい感じがしないのは、要所で冴えた構図をキメる撮影マッシモ・ダラマーノ、おっとジャック・ダルマスの腕であろう。マッシモ・ダラマーノは後に監督となり『ソランジェ 残酷なメルヘン』『ナイトチャイルド』といったホラーやエロティック映画で腕を振るう人物。『バンディドス』というなかなかカッコいいマカロニも監督している。ラストで敵役のヴォロンテが撃たれ、突然主観カメラとなって揺れ動く演出は何度見てもギョっとする。レオーネの仰々しい演出とダラマーノの撮影の呼吸が見事に一致した名場面だと思う。


 映画が終わり、劇場に明かりが点いて驚いた。これまで何度か「午前十時の映画祭」に通ったけど、あんなにお客さん入ってたの初めて見たよ!


夕陽のガンマン/荒野の用心棒

夕陽のガンマン/荒野の用心棒