Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『生き残るヤツ』(イヴァン・パッサー)

生き残るヤツ [DVD]

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『生き残るヤツ』 BORN TO WIN


 監督/イヴァン・パッサー
 脚本/デヴィッド・スコット・ミルトン
 撮影/ジャック・プリーストリー
 音楽/ウィリアム・S・フィッシャー
 出演/ジョージ・シーガル、カレン・ブラック、ポーラ・プレンティス、ロバート・デ・ニーロ
 (1971年・88分・アメリカ) 
 

 先日、旧友宅で映画パンフのコレクションを見ていて気がついたのは、60年代〜70年代アメリカ映画におけるカレン・ブラック率の高さであった。この頃のアメリカ映画って、アメリカン・ニューシネマの諸作、70年代アクション映画、『エアポート‘75』といったメジャー大作まで、やたらとカレン・ブラックが出ているような気がする。ちょっと斜視気味で般若みたいなコワい顔が強烈なのでそう思うだけかもしれないが。


 で、また一本カレン・ブラックが出演している映画を見た。ミロシュ・フォアマンチェコ時代の作品に脚本や助監督として参加していたイヴァン・パッサー(イヴァン・パセル)が渡米して撮った犯罪映画『生き残るヤツ』。田舎の某古本屋のワゴンコーナーに300円で投げ売りされていたのを発見、まさかソフト化されているとは思わなかったので慌てて購入した。聞いた事も無いメーカーで画質も劣悪だったが、ずっと気になっていた映画なので見れただけでも嬉しかった。


 主人公は、腕に「BORN TO WIN」と刺青を入れたチンピラ、ジェイ・ジェイ(ジョージ・シーガル)。しがない生活から抜け出そうと思いながら、売人の使い走りをして小銭を稼ぐ毎日だ。ある日、売人を出し抜いて麻薬を強奪しようと画策するが、張り込んでいた刑事に現場を抑えられ、麻薬捜査のオトリに使われる羽目に陥った・・・。


 『生き残るヤツ』はニューヨークを舞台に、ヤク中の前科者の悲哀を描いている。スコセッシの『ミーンストリート』から友情を抜いて、とことんダメにしたような人間模様には胸を打たれた。背中を丸め憔悴しきった表情で公園のベンチに座る主人公の姿が忘れられない。ミロシュ・フォアマンらとともにチェコヌーヴェルヴァーグに参加していたイヴァン・パッサーは、ダメ人間たちの「生き残る」為の闘いを乾いたタッチで活写している。


 主人公を演じるジョージ・シーガルが素晴らしい。女の家を訪ねて、談笑しながら部屋にある金目のものを物色する抜け目の無い様子。やくざ者に捕まり裸で軟禁され、仕方なく女のネグリジェを着たまま脱出を図る抱腹絶倒の場面。コインランドリーに隠れていたところを刑事に見つかってしまう場面の情け無い姿。等々、シーガルのユーモラスな存在感が輝いている。立派なモミアゲも印象的だ。


 脇役では、主人公をいたぶる刑事役で長髪でひょろひょろに痩せた若き日のロバート・デ・ニーロが出演。やくざ者の手下役でバート・ヤングの姿も見られる。カレン・ブラックは主人公の恋人役。主人公が盗もうとした車の持ち主の娼婦で、気が合った2人はそのまま付き合う事になる。「今まで何人の男と寝た?」と聞かれて指折り数える場面など、本作のカレン・ブラックは妙に可愛い。パッサーの自然な演出が功を奏し、カレンの素の魅力が上手く引き出されているようだ。